今週のお題「爆発」
▲アントニ・ガウディのカサ・ミラ。NHKまいにちスペイン語テキストから。
明るくて元気な人には秘密があって
私が知っている叔母はいつも元気で明るくエネルギーに満ちた人でした。でもある時その人の意外な秘密を知ってしまったのです。人にはたまに会って話をするだけではわからない一面がある事が一緒に生活してみて初めて分かったのでした。あれは高校の夏休みに町工場をやっている叔母の家にアルバイトに行った時のことでした。約1か月間叔母の家の離れで寝起きしていました。叔母の家は代々自営業で、当時は合板会社を経営していて、夫が社長で叔母は経理も担当していました。小さな町工場で、従業員も数人いましたが、叔母は男並みに仕事をこなしていたのでした。誰が見ても、叔母は卒なく町工場の社長夫人を演じていました。
ところが、ある日私が離れに居ると、母屋から叔母の何やらわめくような声が聞こえて来たのです。何事かと思って母屋に行ってみると、そこにはものすごい剣幕で怒っている叔母がいたのです。「誰も私のことなんかわかっていない」だの、子供に向かっては「何度言えばわかるの」などと訳の分からないことを怒鳴っていたのです。驚いて絶句していると、小学生の長男がやってきて「今は近づかないほうがいいよ」と言いました。長男の話ではこの事態はいつものことらしいのです。こうなった叔母に何を言ってもダメでお姑さんにも怒鳴り散らすのだそうで、嵐が過ぎ去るのを待つしかないのです。どうやら叔母は定期的に爆発を繰り返しているようで、周りもそれを仕方のないことだと受け入れているのでした。自分のストレスを周りの人に当たってまき散らして、解消していたのでしょうか。
思えば、覚悟していたとはいえ、姑に気を使い、子供二人を育て、家業のために毎日働いてストレスも溜まっていたはずです。そこでうまくストレスを解消しようと思っても全くひとりになることができないのです。それに数人ではありますが従業員もいたので、世間体というのも気にしていました。小さい頃から子供に両親のことを「お父ちゃん、お母ちゃん」と呼ばせていたのに、従業員を雇うようになってからは「お父さん、お母さん」と呼びなさいと子供に言い聞かせていたのです。その話を子供から聞いた時はそんなことは関係ないのではと思いました。でも今にして思うと、叔母なりのこだわりなのでした。それには従業員が皆近くに住んでいる人たちなので、ある事ないこと言われるのを警戒していたのかもしれません。
そう言えば、叔母が爆発したのは工場が休みの日で、そのとき旦那さんは出かけていて留守でした。叔母はいつも「ハルコ(長女)はお父さんに似てきつい」と嘆き、長男は「僕はお父さんのようにはなりたくない」などと父親を陰から見ていたのでした。叔母が爆発を起こした翌日、朝起きて母屋の食堂に行ってみると、そこにはいつもの叔母がいました。台所に立ってみそ汁を作っている叔母は昨日のことなど忘れているようでした。何事もなかったかのように明るく元気な叔母を見ていたら、完璧な人間なんてこの世に居ないのだと思えてきました。人に当たり散らして、ストレスを解消できるとは思えませんが、叔母の爆発は「もう我慢も限界だ」というサインでもあるのです。
部屋を掃除をしなければ、埃が溜まるように人間の心も水が底に溜まれば自然とよどんできます。だから流れをよくするために何かしなければなりません。以前読んだ本によると、「私はストレスなんて無縁」という人が一番危ないそうで、鬱病になる可能性が高いのです。だから精神科医がそんな人に勧めるのは週末号泣で、涙を流して心をリセットする方法です。実際にあった悔しい場面を思い出すのもひとつのやり方ですが、それでは精神的に悪影響を与えます。嫌なことは思いださない方が賢明なのです。だから、映画やドラマを見て泣いて、洗い流すのが一番良い方法です。私もやってみましたが、泣いた後は不思議とすっきりするものです。
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