人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

パン屋さんの衝撃の一言

パンはあまり好きじゃない、でも作るのは好き!?

 先日のTBSラジオの「宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど」を聞いていて仰天してしまった。その日のゲストはパン職人の人ふたりだった。ひとりはかれこれもうパンを作って35年のベテランで、もうひとりは2年半のいわゆる新人だった。冒頭からMCの宮藤さんがふたりに「一番好きなパンはなんですか」と直球の質問をした。すると、ベテランの人が少し間をおいて「う~ん、あまりパンは好きじゃないんです」などと答えたのだ。この青天の霹靂ともいえる答えに宮藤さんも「ええ~!?」と仰天するしかない。番組はその瞬間爆笑の嵐だった。ラジオを聞いているこちらもあり得ない事態に戸惑うばかりだったが、なんだか可笑しくて笑いが止まらない。パンを愛情込めて、毎日お客さんのために作っているパン職人がパンが好きではない、だなんて一体どういうこと?よ~くわかるように説明してもらいたいのが正直な気持ちだった。

 周りの不可解な反応に、このままではまずいと思ったのか、ベテランは「食べるよりも作る方が好きなんです」と言い訳ともとれる発言をした。それで宮藤さんもそういう人も居るのだとやっと納得し、気を取り直して次の質問をした。それは「売れ残ったパンはどうするのですか」だったが、普通は当然廃棄しか思い浮かばない。ベテランは、フランスパンや食パンはラスクにして再利用し、クリームが入っている他のパンは廃棄に回すという。売れ残ったパンを何個かまとめて安く売るというようなことはしないそうで、パン屋としてのプライド?が許さないらしい。

 一方の新人は元教師としての裁量をいかんなく発揮して、なんと廃棄ゼロというから驚いた。ネットでSNSとかを駆使して、注文を取って置いてから作るので無駄に余らせることはない。もしもパンが売れ残ったとしても、ちゃんと安く引き取ってくれるシステムがあるから困らない。なんともスマートで賢いやり方でパン屋を経営していることに感心せざるを得ない。だが、この抜かりないように思える新人にも悩みがあった。それは売上が天気に左右されることで、雨や雪の日、台風の時などは閑古鳥が鳴くことに。

 ところが、この新人の発言を聞いたベテランはなんと、「そんなこと、考えもしなかった。今日は勉強になりました」などと言ったのである。これには宮藤さんが「もしかして、何も考えずに漠然と35年間パンを作ってきたのですか」などとツッコミを入れた。私も「パンは好きではない」発言と同様に二度びっくりした。パン、お米、麺類の三つの中で、どれか食べられなくてもいいものは何かと聞かれたら、迷わずパンを選ぶという、面白い人である。どんなきっかけでパンを作るようになったかは聞けなかったが、パンを作るのは楽しいようで、一番好きなパンはカンパーニュなのだとか。

 以前、休みの日にドトールに足げく通っていたことがある。真ん中に噴水がある大きな丸いカウンターに座って本を読んでいたら、夕方になって4~5人の男女のグループがやって来た。彼らの話からすると、どうやら専門学校、それもパンに関係する学校の同窓会かなんかの帰りのようだった。その中のひとりで、自分の家でパン屋をやっているらしい中年の女性は「自分の作りたいパンとお客さんが食べたいパンは違うのよねえ」と歎いていた。彼女が作りたいのはパン本来の味を楽しむハード系のパンなのに、お客は総菜パンやサンドイッチを欲しがる。正直言って、ああいうものは手間がかかってめんどくさいから作りたくはない。されど、それらを作らないとお客は寄っては来ないのだから、まあ仕方ないのだ。

 思えば、私の家の近所にある個人経営のパン屋はすべて絶滅した。駅前には有名なチェーン店のパン屋が二つほどあるが、とても美味しいと思えないので足が向かない。そうだ、先の賢すぎる新人のパンさんが言っていたことをふと思い出した。それは「お客さんがいない店内は寂しすぎて、孤独を感じる」との発言だ。ネットと言う文明の利器を活用して卒なくやっているにも関わらず、悩みは尽きないらしい。

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