人生は旅

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本屋の森のあかり

今週のお題「一気読みした漫画」

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 大型書店の裏側を覗き見するような感覚が新鮮で

 もうだいぶ前に読んだのに今でも忘れられない漫画、それが磯谷友紀さんの『本屋の森のあかり』です。この本を知ったきっかけは新聞のコミック欄の書評でした。その頃は普段から大型書店に通っていたので、その裏側に興味津々だったからです。それに物語の一話ごとにある本のエピソードを絡ませてストーリーが展開するので、未知の本と出会えるチャンスでもあるのです。書評を読んで「なんだか面白そう!」と思ってしまったら気持ちが抑えられません。その勢いで本屋に行って即購入し、ひたすら読みまくりました。物語の主人公は高野あかりという20代の女性で、地方の支店から東京の本店に転勤になったばかりでした。新米ではなく何年か勤務したことがあるのに、彼女は都会の仕事のスピードの速さと何も知らなかった自分にショックを受けるのでした。大好きなレジ打ちも接客も得意だったはずなのに、今までの自分を全否定されたかのように落ち込むのでした。また、棚の作り方やポップの重要性など、今までたいして考えたこともなかったことに気づかされて目から鱗でした。彼女が新しい仕事場で経験する見たことも考えたこともなかったことは、私たち読者にとっても新鮮で興味深いことです。

 この漫画は書店の内情を垣間見ることができて面白いのですが、それと同時にあかりと副店長の寺山との恋愛未満の関係にも注目です。はた目にはノロノロでまるで牛の歩み、カタツムリのようにたいして進展もしません。それで読者としては「二人はこれからどうなるのだろうか?」と気にならないわけがありません。この寺山というキャラクターは本にしか興味がなくて、本が好き過ぎて本を読みたくて書店員になったという設定になっています。本を読む時間を作るために、家には帰らず仕事場で本をひたすら読み耽るのです。あかりは彼に「月に何冊ほど読みますか」という何気ない質問をします。すると「300冊」と答えたので、彼女は椅子から転げ落ちるくらいの衝撃を受けてしまいました。彼は本の世界に住む住人で、仕事の時以外は普通の人々が住むこちら側の世界には興味がないらしいのです。もちろん人間に対しても、ましてや女性に恋愛感情を抱くなんてありえません。

 だから、あかりとの関係も上司と部下の関係を超えることは不可能、到底無理だと思いました。仕事の時やたまに帰りが一緒になったとき話す程度で、交際をしているわけではありません。それでも人間というのは不思議なもので、ちょっとした立ち話やその人の行動でどんな人なのかだいたい察知できてしまうようなのです。本屋という特殊な職場なので二人の共通言語は自然と本に関することです。でも本の好みまでは一致するわけではなくて、彼の読む本はあかりにとっては難しすぎる本ばかりです。それでも彼女が母との思い出を語る際にマザーグースの詩を読むとすぐさま共感してくれる、つまり二人の間に親密な交流が生まれたのです。そんな機会が何度も重なれば自然と自分の硬い殻を破って出てきて,こちら側に来てくれるのではと読者は期待してしまいます。

 当時、都心にできたばかりの大型書店は8階建てで、それぞれのフロアに図書館にあるような背の高い棚がずらっと並んでいました。それらをまるで木々のようだと考えたら、まさに大型書店は森だと言えます。その書店はできた当初は感激したのですが、もう少しスペースがあるといいなあと正直思っていました。そしたら、ある日突然、壁だったはずの、一面棚で覆われていたはずの壁の視界が開けたのです。どうやら、知らない間に工事が進んでいて、魔法のように隣のビルと繋がったようです。今までの小さな森はより大きな森へと変身したのでした。それと、書店のエスカレーターに乗るたびにいつも目にしたのは「アルバイト募集!!」のお知らせの貼り紙でした。時給は980円でまあ普通でしたが、気になったのは交通費が支給されないことでした。そのせいで応募する人がいないのかと想像したわけで、書店の台所事情も垣間見えたのでした。

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