人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

子供の頃飲んだ抹茶

今週のお題「好きなお茶」

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バルセロナにあるガウディによるグエル邸。NHKまいにちスペイン語テキストから。

遊びに行くとおじいさんが抹茶をご馳走してくれて

 考えてみると、今ではもうお抹茶を飲む機会はほとんどありませんが、子供の頃は違いました。田舎に住んでいた頃は近所に住むおじいさんの家でよくご馳走になっていました。その人はキクさんと皆が呼んでいる白髪頭の元気な老人でした。キクさんは息子さん夫婦と一緒に広い家に住んでしましたが、隠居していたわけではありません。毎日のように畑に行って農作業をして、野菜を市場に卸していました。どうやらすべて自分ひとりでやっていたようで、息子さんたちが手伝う姿は見たことがありませんでした。 と言うのも、キクさん家の畑は私の家の畑のすぐ隣だったからです。家の畑は当時の火葬場のすぐ近くにありました。父が勤め人で母が畑をやっていた兼業農家の我が家の畑と違って、キクさんの畑は整然としていました。見比べてみれば、違いは明らかで、我が家の畑は雑然として見苦しく、雑草があちこちに生えていました。

 自分の家で食べるためだけに育てている野菜と市場で商品になる作物との差は子供でも分かります。我が家の畑と一線を画しているキクさんの畑は子供の目から見ても美しかったのです。綺麗に土が盛られて、草ひとつ見当たらないネギの畝は今でも記憶に残っています。今思うと、こんな立派な畑の隣に草ぼうぼうの畑があるなんて、さぞかし迷惑なんだろうなあと感じてしまいます。思わず見とれてしまうキクさんの畑ですが、私が知る限り大人同士の諍いは記憶にありません。隣同士互いにいろんな思惑はあったのでしょうが、そこは丸く収まっていたと想像できます。

 そんな働き者のキクさんの楽しみはお抹茶を立てて飲むことでした。近所の子供が勝手に自分の家の庭に入ってくるのにキクさんは嫌な顔一つしませんでした。きっとキクさんは子供が好きだったのです。キクさんの家には孫がいなかったせいか、余計に子供たちが遊びに来るのが嬉しかったのです。近所の人たちが噂をしているのを聞いたことがありました、「あそこの嫁は後妻で、自分の子供を置いてきたんだって」。でもそのお嫁さんは子供にとっては普通の人で、特に性格の悪い人でもありませんでした。

 ある日、近所の子供2,3人とキクさん家の庭を覗くと、「今日は饅頭があるぞ」と声がかかりました。早速家に上がり込み、皆神妙に正座をして待っていました。正直言って、抹茶が特に好きと言うわけではありませんが、お茶をご馳走になれるのですから断る理由はありません。それに手加減して少し砂糖を入れてくれるので、渋みにも慣れて来て、いいえ、その渋みが心地よいと思えてくるのでした。また、別の日にはキクさんは庭で何やら一生懸命やっていたので、「何だろう?」と思いました。よく見ると、それはニワトリのガラでした。大きな石の台の上にガラを乗せて、それをトンカチで潰していたのでした。見る見るうちにガラはミンチのようになって行き、うず高い山が出来上がりました。すると、キクさんは今度はそのミンチを丸い団子のような形に握り始めました。結構な数の小さな丸い団子をあれからどうしたのか、「こんなに作ってどうするの?」と絶対に質問したはずです。でも残念ながらキクさんの答えを思い出すことができません。

 大人になって故郷を離れて、キクさんのことをすっかり忘れていました。でも抹茶と聞くと遠い記憶の彼方から、じわじわと思い出が蘇ってきました。この間、叔母の葬儀のために実家に帰ったとき、偶然にキクさんの家の近くを通りました。懐かしい気持ちで一杯になり、思わずその一角に目をやると、あろうことか、家はなく更地になっていたのでした。

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