人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

これからも中国語を学び続けたい

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中国語を勉強する機会は突然に

 あれは兄の葬式が終わって、貸し切りのマイクロバスに乗り込んだ時でした。「これからは私たち残されたもの同士で仲よくやらなくちゃ」と一番上の姉が言いました。それから続けて「みんなでどこか旅行にでも行こう」と提案したのです。姉が行きたい所は浜松で、どうやら最近始めた俳句をそこで作りたいという考えらしいのです。私は最初、「浜松って何があるの?」と全然乗り気ではなかったのですが、断るのも悪いと思ってしぶしぶ行くことにしました。と言っても、新幹線の切符の手配も泊まる宿を決めるのもすべて一番若い私の役目なのでした。不幸にも大役を仰せつかったものの、準備を進めるうちにだんだんとやる気になり、この旅行をなんとしても心に残る最高の物にしようという気持ちが湧いてきました。格安でホテルのスイートルームに泊まるプランをネットで見つけたときは、「これだ!」と確信しました。予想通り姉も二番目の姉もみんな大満足で、「こんなにゆっくりできるなんて夢みたい!」とか「普通の部屋だったらみんなで座る場所なんてないわよ」と嬉しいことを言ってくれました。私は無事役目を果たして、これでお役御免となるはずでした。それなのに、姉の口からは「ねえ、今度は台湾に行かない?」などという信じられない言葉。仕方がありません、それから私の台湾研究の日々が始まりました。

 まず、本屋に行ってガイドブックの棚を捜して、一番役に立ちそうな「地球の歩き方台北版」を買ってきました。それと同時に先立つものはやはり言葉なので、NHKラジオ講座で中国語を勉強しようとテキストとCDも買いました。確か姉から旅行したいと言われたのは、11月の終わりで浜松旅行の最終日の新幹線の車中でした。だから、今からだと途中で、普通、語学講座は10月から始まるので、その分を聞き逃しているからでした。実を言うと、昔少しかじったことはことはあったのですが、四声という特殊な発声方法に恐れをなして逃げた経験があるのです。中国語ではやはり四声が発音の基本中の基本です。でも身体で覚えるのは簡単ではありません。その頃はまずは基本をみっちりとやらなきゃと思い込んでいたので、いつまでたっても前には進めないのです。その結果、半年も経つと「自分には無理なのだ」と放り出して、それ以来忘れていたのです。

 そんな私が幸か不幸か姉の気まぐれなひとことで、中国語に再会することになりました。正直言って、私はヨーロッパが大好きで、自分と同じアジアの国には全く興味がありませんでした。必要に迫られて勉強し始めると、やはり最初の関門である四声の壁が立ちはだかりました。当然うまく発音できないし、聞き取ることもできません。でもここで終わるわけにはいかないので、無視して先を急ぎました。すると、信じられないことに緑の原っぱが見えた気がして、意外に中国語は面白いという気持ちが湧いてきたのです。誰しも完璧を目指したいのは当たり前です。でもそんな高い山を目指したら、苦しくて堪りません。もう薄々わかっているのです、それができるのは”一を聞いて十を知る”ことができる人だけなのだということを。私には記憶力なんて皆無だし、見果てぬ夢だということはわかっている。覚える先から忘れて行くので自分が嫌になることもある。でもそんなダメな自分を受け入れることにしたのです。つまり中国語の知識がゼロよりは一の方がましだということです。ゼロよりは多いほうがずうっといいし、また楽しいのです。

 中国語の勉強が一番楽しかったのは、姉と台北旅行に行くまでの6カ月間でした。目標がハッキリしているせいか、目の前にぶら下がっているニンジンに釣られる馬のように熱中しました。そのおかげで中国語が外から見ているほど難解な言語ではなく、たとえ発音が上手くできなくても、漢字さえわかれば筆談だって可能なのだとわかったのです。だから悲観することなく、淡々と勉強を続ければ役に立つのです。実際に旅行に行って道を尋ねようとすると、それを手で遮って、スマホを差し出す人がいることも事実です。こちらが付け焼刃の拙い中国語を使おうとするのを拒むのですが、まだまだそんな人は稀なのです。台北は親切な人が多いせいか、大抵の人は私の中国語にちゃんと耳を傾けてくれました。だから中国語を思いついた時だけ、気の向いた時だけやる気になる、不真面目な視聴者である私のような存在もあっていいのです。決して無意味なことではないと思うのです。

 いずれにせよ、私は姉のふとした思いつきから中国語の世界に迷い込んでしまいました。最初は嫌々でしたが、中国語は奥が深いし、難しいけど面白いと思えるようにまでなりました。このことに関しては、本人には面と向かっては言えませんが、姉に感謝したいと思います。

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