人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

寒い冬の日に目撃したものとは

今週のお題「告白します」

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目の前に一糸まとわね女性が現れて

 実は私、この話を人にするのは初めてなのです。なぜかというと、本当のことだと信じてもらえないと思うからです。もし私が聞かされる方だとしたら、「まさか」とか「ふ~ん」で終わりで、それ以上の会話は続かないと思うのです。「ふ~ん」で済ませらせるほど、あの時の衝撃は生易しくはありませんでした。でも聞く方にとってはあくまで人ごとで、それ以上の想像力は働かないのです。つまり、相手の共感は到底得られそうもないし、その場でのあの驚きをわかってもらうことは無理だからです。「そりゃ、さぞかしびっくりしたよね」という言葉を期待しても、あの衝撃は実際に体験した人でなければ理解できないことは確かなのです。だから、あの光景の話は誰にも言えないし、また話題にもすることはなかったのです。

 あれはまだ東京に住んでいる時で、2月の凍てつくような寒い日のことでした。私は高田馬場の方に向かって早稲田通りを歩いていました。明治通りと早稲田通りとの交差点を右に曲がって池袋の方に行こうとしていたのです。その時、ふと交差点の方を見ると何人かの人が信号待ちをしていました。それはいつもの光景なのですが、なぜか端っこにいるカメラマンらしき男性と若い女性が気になったのです。彼らはそこで何かを待っているようでした。こんな凍えるような寒い日にいったい何をしようというのか。その時は不思議でしかありませんでした。女性はお正月に恒例となっている箱根駅伝の選手が着ているようなベンチコート姿で白いブーツを履いていました。

 私が交差点の前を通り過ぎようとしたら、ちょうど信号が赤に変わりました。先ほど待っていた人達はすでに横断歩道を渡り終えていました。止まっていた車が一斉に動き出しました。明治通りは再び夥しい車の喧噪に包まれました。すると、今まで電柱に寄りかかっていた女性がパアッと勢いよくベンチコートを脱いだのです。そしたら、その人は何も着ていなくて、生まれたままの姿だったのです!その瞬間、カシャ、カシャ、カシャとシャッター音が響きました。撮影はそれで終わりのようでした。女性はすぐにベンチコートを着て、何事もなかったかのような顔をしていたのを覚えています。あの信じられないような光景を見たのは一瞬の出来事でした。でもあの女性の一糸まとわね姿は忘れようもないのです。

思いがけなく懐かしい記憶が蘇って

 そんな光景を目撃した私は何か見てはいけないものを見てしまったような気がして、後ろめたい気持ちになりました。一刻も早くこの場から離れたいという気持ちが強かったので、自然と速足になりました。それでも胸のドキドキ感はすぐには止まらずに、その日は一日中頭から女性の姿が消えることはありませんでした。今にして思うと、あれはきっと雑誌か何かに載せるグラビアで、何台もの車が走り去る背景が欲しかったのでは。そんなことを考える余裕ができたのは、もう昔のことで忘却の彼方にある体験だからです。それと、女性の裸身からふと思い出したのは、昔大好きだったイラストレーターの大橋歩さんの描く小悪魔的な女性の絵。平凡パンチの表紙でセンセーションを巻き起こした大橋さんの絵の世界では女性も男性も洋服は着ていなかった。でもちゃんとメイクはするし、髪型だって、足元だっておしゃれしていた。クレヨンで描かれたように見えるイラストの女性は実に魅力的で、何より描き手の情熱と勢いが伝わってきた。忘れていたはずの懐かしい記憶が蘇って来るなんて、なんと幸運なのでしょう。自分が長年心の中に持っていた秘密を打ち明けたら、思いがけなくギフトを貰ったような気分です。

 

mikonacolon