人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

『ザリガニの鳴くところ』を読んで

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全米で500万部売れた本とは

 ある日の新聞の書評欄に一冊の小説が紹介してあって、なんと最高の星5つの評価がをもらっていました。今年有数の傑作ということらしいのです。その小説はディーリア・オーエンズの『ザリガニの鳴くところ』で米ジョージア州の動物学者が書いたものです。紙面では「自然の中で一人で生きる女性の孤独が胸を打つ」とか「豊かな自然描写に引き込まれる」などと書かれてあって、その時は退屈な物語なのではないかとも思いました。ところが、すぐ後でその本が全米で500万部も売れた本で日本でも話題になっていると知ったのです。何たる勘違いをしてしまったのか!それで「いったいどんな内容なんだろう」と好奇心がムクムクと湧いてきました。大勢の人が共感させられたものとは何なのか、探すために読み進めてみました。読みながら、主人公の少女に感情移入して泣いてしまいました。やがて才能が認められた少女が自立し、自分の身に降りかかった困難をも克服しました。

最後のページを燃やしたい!

 感動で終わるはずだったのに、なのにあの最後のページを読んで奈落の底に突き落とされました。驚愕の真実に、「まんまと騙されていた!」と思わずページをめくって前の部分を読み返していました。ぐちゃぐちゃになった頭で、必死になって自分の納得のいく説明を捜しました。感動で胸がいっぱいの時に、冷や水を浴びせられたのです。一番起こってほしくないことが事実だと知らされたあと、少女の孤独の深さを思いやってまた涙です。サクセスストーリーなのに、それだけではなく、胸の痛みを感じずにはいられない物語です。本の帯にある書店員さんの叫びが聞こえて来るようです。『終わりが、もう、あの、ページを破って燃やしたい』

7歳の少女がひとり生きるとは

 少女はひとりで沼地に住んでいました。誰からも見捨てられた湿地で夜中にムール貝を麻袋に2杯取るのに忙しい毎日を送っていました。見捨てられた土地と言っても、村人がそう呼ぶだけで、実際は豊かで動植物の宝庫でした。5歳で母に、7歳で父に去られた少女は父の真似事でボートを操縦して、ムール貝を雑貨屋に売りに行きます。そのお金でボートのガソリンや食料を調達していました。広大な湿地は彼女の庭のようなもので、彼女の友達は人間ではなく動物、それも鳥の仲間のカモメたちでした。貝や珍しい綺麗な鳥の羽根、キノコなどを採集するのが彼女の趣味でした。字が書けないので、すべて絵にかいて記録していたため、後になってそれらのコレクションが役立ちました。母親が残していった水彩、油絵の具やスケッチブックのおかげで、貧しいながらも彼女は豊かな自分の世界を持っていました。膨大な生物の標本と解説書が貴重な沼地の資料として出版社からオファーが来るようになったのです。

 15歳の時、文字を教わる機会に恵まれた彼女は見る見るうちに言葉をマスターしました。やがては大学の生物の教科書までも興味を持って読むようになったのです。彼女は蝶のラテン語名まで説明できるようになり、湿地の専門家と呼ばれるようになりました。この小説は読んだ後に、まるで自然が豊かな湿地の体験ツアーに行ったような気分にさせてくれます。カマキリは交尾の最中にメスはオスの頭を食いちぎってしまう。それでもオスは交尾に没頭し、下半身だけが残った状態で交尾を終えるのだ、とか。ホタルの雌は偽りの信号を送り、別種の雄を誘って食べてしまう。とまあ、こんなふうに興味深い話ばかりで退屈することはありません。

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