人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

サハラ砂漠の自動車学校

f:id:mikonacolon:20200710134644j:plain

▲「サハラの歳月」本編の冒頭にある著者サンマウと夫のホセの写真。サンマウはホセの死後台湾に戻ったのだが、48歳の若さで亡くなっている。彼女が「私は薬をたくさん持っている」と書いていたので、やはり病弱というのは本当だったのかと納得した。

車に乗って自動車学校に通う?

 サンマウによると、サハラ砂漠にもちゃんと自動車学校はあるそうで、日本と同様に免許取得には大金がかかるのだそうです。驚くべきことに彼女は免許が無いのに平気で運転していたみたいで、当然のことながら警官に目を付けられました。だからしかたなく車で学校に通うことになったわけです。それにしてもサンマウは運転をどこで習ったのか、本人に言わせると見よう見まねで覚えたという。運転する人たちを注意深く観察していたら、いつの間にか自然に覚えてしまったのだ。そして実地訓練はというと、車に乗せてもらった時に運転させてくれるように頼んだらいつも成功したという。そういえば、私の友達も車の運転を教習所に行く前にマスターしてしまったひとりです。家が車の販売店を経営していたので兄たちの真似をしていたら自然に覚えてしまったそうです。しかし、車の運転には自信があった彼女が苦手としたのは意外にも交通規則を覚えることでした。満点が常識だというプレッシャーに押しつぶされていたのです。

自動車学校の向かいは刑務所

 さて、町のはずれに自動車学校はあって、なんと向かいには刑務所があり、暇を持て余しているのか大勢の見物人がいるのです。この想定外の組み合わせはまさにアラブの世界で実に面白いとしか言いようがありません。車を運転していると声援なのか野次なのかわからないような励ましの声が向かいの建物のベランダから聞こえてきます。砂埃の中で孤独にただひたすらハンドルを握るより、いつも応援してくれる観客がいることは心強いです。サンマウは自信満々で教習に臨むのですが調子に乗りすぎて脇道にそれて砂の山に突っ込んでしまいます。それでも「がんばれ~」の声援に助けられて、次回の挑戦では無事免許を取得するのです。サンマウは感謝の印として囚人たちにビールとたばこを贈りました。ただ、50度の暑さにたまりかねたのか、教官が何の断りもなしに上半身裸で車に乗りこんできたのには閉口したそうです。嫌気がさしてそれからは行く気にならず、やめてしまってホセに大目玉を食らったこともありました。

教官に漢字と史記を教えることに

 あとは筆記試験だけなので交通規則を学ぶため教室で教官を待っていました。そしたらサンマウに「中国の漢字を教えてくれないか」と頼んできたのです。ふつう自分の仕事そっちのけでそんなこと言いますかねえ、たぶん相手が中国人だから絶好のチャンスと察知したのでしょう。そこは抜け目がない人達、その言い方が失礼に当たるとしたら、彼らの道理から言えば「目の前の獲物をみすみす諦めるなんてありえない」のです。だからサンマウは快く彼の頼みを引き受け、漢字のみならず中国の歴史書の「史記」の話まで教えてあげました。彼女は筋金入りの本の虫なのでその手の話はお手の物なのです。生徒のつもりで行ったら急遽先生にをやることになってしまうのですが、なんでも屋になることがここで生きる秘訣のようです。

 その教官は実に熱心な生徒で次回に会ったときは漢字をいっぱい練習したノートを見せてサンマウを喜ばせます。しかし、交通規則の勉強はいっこうに進まず、覚えられないのでホセに馬鹿にされてしまいます。怒ったサンマウはその場で薄い教本を一冊丸暗記してホセの鼻を明かしてやりました。まさにサンマウ恐るべしです。

mikonacolon