人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

息子に感謝した父親

今週のお題「人生で一番高い買い物」

息子への嘆きが一転、喜びに変わって

 人生で一番高い買い物といえば、思い浮かぶのは何と言っても家だと思う。家を建てる、あるいは家を買うことは、人生の目標に十分なりうるからだ。家のためなら、少しぐらい、いや、相当な額のお金を借り入れても、それだけの価値があると人は信じているからだ。残念ながら、私は家を買ったことはないので、実際に家を買った人の心模様はどんななのかは分からない。そこで思い出したのが、以前知人から聞かされた実家が新しく家を建てた話だ。

 知人の田舎は東北の山の中で、新幹線の駅から車で20分のところにあった。辺り一面木々が鬱蒼としているが、田んぼや畑もあって、それらの緑が目に眩しいのどかな場所だ。近くに店はないが、車を少し走らせて、町に行けば大型スーパーがあるので生活に困ることはない。昔は近くに何でも売っている雑貨屋や食堂があったのだが、今では空き家になっていた。知人の家は彼が高校生の時に父親が建てた平屋で、家の前には小学校の校庭に相当するような広い庭があった。庭と言っても、ほったらかしで、家族4人の車の駐車場になっていた。家族は知人の兄夫婦と娘と息子で、兄は長男である40歳になる息子が未だに独身なのを嘆いていた。このままでは家が息子の代で耐えてしまいかねない。まさに彼の家は絶滅の危機に瀕していた。年子の娘はどうなのかと言うと、それは彼にとってはまた別の問題らしく、いつまでも側にいてもらいたい存在らしい。

 実をいうと、知人の兄には4人の子供がいるのだが、皆誰も結婚していない。それで兄はいつも「うちの子供たちはかたわか!?」と知人に嘆いていた。普通子供が4人も居れば、だれか一人ぐらい勢いで結婚してもいいのではないか。だが彼の子供たちにはその気配すらなかった。当の長男も結婚したくない訳ではないようで、母親が見つけて来る相手と見合いを何度かするのだが、うまく行かないだけなのだ。

 そんなある日、田舎の兄から知人に電話がかかってきた。よほどのことがない限り電話などかけて来ないので、また誰かが亡くなったのかと思ったら意外なことだった。今の家を壊して、新しく家を建てるという話だった。それと、長男の名義で家を建てるので、法律上の手続きが必要だそうで、「ヨツバホームから書類を送って来るから頼む」と言う。ヨツバホームは兄の家を建ててくれる会社らしい。数日後、その会社から送られてきたのは、法律上の書類で、記名してハンコを押すようになっていた。それに加えて、戸籍謄本と、印鑑証明書を添付しなければならない。本来なら、こんなことは直接兄が自分に頼まなければならないことだ。でも今どきはそんなめんどくさいことまで代行してくれるのだ。これって、いわゆる顧客サービスなのだろう。

 印鑑証明と言われて、知人は「久しく使ったことはないので、果たしてどこにあるだろうか」と困ってしまった。タンスの引き出しを捜してみたら、あった、印鑑証明のカードが一枚。だが名前が書いていないので自分のなのか、それとも妻のなのかが分からない。きっと大丈夫だ、大事な物を入れて置くと決めている引き出しにあったのだから、間違いないと判断した。自分は仕事があるので翌日妻に市役所に行って貰うことにした。だが、知人が会社で仕事をしていると、妻から電話がかかってきて、カードは知人の物ではなかったと言われた。妻は家に帰って家中を探してみたが、見つからないので「もしかして、あなたが定期入れかどこかに入れてるんじゃない」などと知人を疑った。

 結局、電話の後でもう一度妻が捜してみたら、なんと思ってもみなかった、とんでもない場所から知人の印鑑証明のカードは見つかった。ほっと一安心して、ヨツバホームに書類を送り、「今、郵送しました」と兄にメールをした。それなのに、兄からは梨のつぶてで何の連絡もない。こちらはひと騒動あったのだから、せめて「ありがとう」ぐらい言ってくれてもいいのにというのが知人の本心だった。

 何か月かして家が完成したころ、知人は実家の兄に電話をしてみた。兄は新しい家にとても満足しているようだった。家の費用はすべて長男が出したそうで、「あいつはお金持ちなんだよ」と嬉しそうだ。考えてみれば、長男は工業高校を卒業してからずうっ同じ会社で働いていた。20年以上も実家で暮らし、知人の母に言わせれば、”あの子は会社から真っすぐに家に帰って来て、どこにも遊びに行かない”真面目な長男である。何千万もの貯金があったとしても当然のことで、別に驚くべきことではない。息子にオール電化の快適な家をプレゼントされた兄は、もう長男の結婚については関心がないようだ。

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