人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

フィンランド航空の靴下

今週のお題「お気に入りの靴下」

f:id:mikonacolon:20211119211732j:plain

コート・ダジュールを代表する観光名所のエズ村。NHKまいにちフランス語テキストから。

機内にある一足の靴下が空の旅を快適にしてくれる

   まだコロナが流行る前、普通に海外旅行に行くことが可能だった頃、私はいつもフィンランド航空を利用していました。その主な理由は9時間でヨーロッパに行けてしまうからでした。ヘルシンキから乗り継いで、どこでも好きな都市に同日乗り継ぎができてしまうことも魅力でした。この9時間というのは私にとってちょうどいい時間で、これ以上時間がかかると座席に座っているのが苦痛に感じられるのです。どうしてかというと、以前にウィーンに行った時にオーストリア航空を利用したのですが、13時間もかかりました。直行便で乗り継ぎが無いので楽かと思ったらとんでもない、最後の方は腰が痛くて堪らなくなり、どうか早く到着しますようにと心底思いました。

 それで、乗り継ぎというのは面倒なものではなくて、人を気分転換させてくれるものなのだと気付いたのです。私にとっての機上での9時間は自分の世界に埋没する時間で、あっという間に目的地に着いてしまいます。機内では眠るなどというもったいないことは一切せず、ひたすら目の前の液晶画面に集中し、映画を何本も見て楽しみます。座席は普通のより1万円ほど高いエコノミーコンフォートで、10cmほど座席と座席の間隔が広くなっています。初めてその座席に座ったとき、枕や毛布と一緒に小さなポーチが置いてありました。マリメッコ柄の四角い布の入れ物の中には、耳栓、歯磨き粉、歯ブラシ、綿棒などに加えて、グレーの靴下も入っていました。

 最初はなぜ靴下がいるのだろうと不思議に思いました。私はいつもスリッパを持っているので、靴を脱いで足を休めるためにそれを履きます。お隣や前の人の足元をチラッと見たら、靴を履いたまま乗っている人がいたりして少し驚いてしまいました。足が疲れないかなあと内心思いましたが、平気なのだろうとすぐに自分の世界に入り込んで忘れてしまうのです。ポーチに入っていた靴下の使い道がわかったのは、目的地に到着して飛行機から降りる時でした。前の人に続いて搭乗口まで機内を進んでいたら、足元にグレーの脱ぎ散らかした靴下が転がっていました。

 おそらく、スリッパがない人が靴を脱いで、靴下のままそれを履いたか、あるいは素足に直接それを履いたかのどちらかでしょう。機内で靴を履いたまま9時間もそのまま過ごすことは、気にしなければ、慣れれば構わないのかもしれませんが、後からどっと疲れを感じることになると思うのです。なので、グレーの靴下は乗客が機内で寛ぐために必要なサービスなのです。スリッパを履いていて、想像力が欠如している私には、靴下を何に使うのか思いもよらないことでした。その靴下は一見、何の変哲もないグレーの靴下だったので気にもしなかったのですが、試しに履いてみようかとふと思いました。

 どんな靴下なのか、確かめたくてホテルで一息ついたら早速使ってみました。熱めのシャワーで旅の疲れを洗い流した後、素足に履いてみるとなんだか肌触りがとてもいいのです。グレーの靴下は生地は薄めですが、伸縮性があって伸びるのです。今までこんな靴下には出会ったことがありませんでした。足を締め付けないので、足にとっても優しい。素材は何だったのか、今でも全く分かりませんが、それを調べようにも現物がありません。あまりの気持ちよさに家に帰ってからも散々酷使したせいで、穴ぼこが空いたので引退してしまいました。何でも大事に取って置くことなど考えず、とにかく使ってしまう性格のおかげで、今となっては幻の靴下になってしまったのです。

mikonacolon