人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

失恋して、やる気が出ない

今週のお題「やる気が出ない」

f:id:mikonacolon:20210514151143j:plain

 後輩が元気がない訳に仰天して

 まだ若かった20代の頃、会社にさゆりちゃんという可愛い後輩がいました。性格が素直でおとなしい子で、同僚とも仲良くやっていました。その彼女がある日、突然元気がなくなって、顔の表情も暗く沈みがちになった時期があったのです。仕事にも真面目に取り組んでいたのに、どう見てもやる気が出ないようなのです。具合でも悪いのかと心配して聞いても、なんでもないと答えるばかりで原因がわかりませんでした。そしたら、昼休みに同僚たちが彼女の噂をしているを偶然聞いてしまったのです。

 彼らの話によると、さゆりちゃんは隣の資材課の樋口さんに失恋したのでした。樋口さんはどこにでもいるようなあまり目立たない20代後半の男性でした。失恋したと言っても、全くの彼女の片思いで樋口さんにして見れば、迷惑以外の何物でもありませんでした。信じられないことに、さゆりちゃんは自分の樋口さんに対する恋心を抑えきれず、駅の改札口で待ち伏せしたのでした。この頃はまだストーカーなどと言う言葉はありませんでした。あのおとなしいさゆりちゃんのどこにそんな暴挙に出る一面があったのか、戸惑うばかりでした。同じ課ではないにしても、会社で顔を合わせる機会も多いのに、さぞかしやりずらいだろうと同情したものです。もし、私がさゆりちゃんなら、穴があったら入りたい気持ちでいっぱいで、会社に行く勇気が出ないと思うのです。

 それでも、さゆりちゃんはひるむことなく毎日会社に来て仕事をしました。考えてみると、若さというものは後先考えず、行動してしまうものなのです。思慮が足りなかったと後悔するとわかっていても突っ走ってしまうのです。あの頃、職場恋愛というものが流行っていて、同僚たちがたちまちのうちにカップルになりました。そんな彼女たちを見ていたら、自分もあんなふうになりたいと思うのが普通です。そんなとき、休憩の時に樋口さんについて誰かが噂をしているのを、さゆりちゃんは耳にしたのです。樋口さんとはエレベーターや仕事のことで打ち合わせをするときに、たまに顔を合わせる程度でした。それまでは特に彼のことを意識したりすることはなかったのです。

 噂によると、樋口さんの実家は資産家で、父親は会社を経営していて裕福なのだというのです。あんな家の息子と結婚出来ればいいのにだなんて、無責任に誰かが言ったのに違いありません。それを聞いたさゆりちゃんは、急に樋口さんのことを意識しだしたのです。まず、樋口さんと顔を合わせたら、できるだけ話をするようにしたのです。きっと、この時彼はさゆりちゃんの中では理想の王子様だったのです。そしてそのアプローチが何回か続いた後、さゆりちゃんは彼に告白しました。自分と付き合ってくれるように迫ったのですが、何も知らない樋口さんは面食らってしまいました。ロクに話をしたこともないし、親しくもない職場の女性に突然交際を申し込まれても、どう返事していいかわかりませんでした。それで、樋口さんは相手を気づつけないよう丁重に断ったのです。

 ところが、樋口さんの断り方に納得がいかなかったのか、さゆりちゃんは諦めませんでした。だから、樋口さんが住んでいるアパートの最寄り駅で待ち伏せすることにしたのです。さゆりちゃんは樋口さんが家に帰る時間に合わせて、駅の改札口で彼を待つことにしたのです。彼が改札を出て来ると、嬉しそうに手を振って迎えたのです。つまり、諦めなければ願いはかなうというか、誠意?を見せれば人の心は変えられると固く信じていたのです。それなのに、樋口さんの心にはさゆりちゃんへの好意はひとかけらも芽生えず、ただ不快感だけが日々増殖していたのです。

 そして、ある日樋口さんは堪らずにさゆりちゃんを会社のテラスに呼び出しました。樋口さんとしては、ストーカーみたいな行為をされて、もう我慢も限界でした。これ以上続けるのなら、上司に報告すると怒りをあらわにしたのです。さゆりちゃんは、樋口さんのきつい言葉を聞きながら、ただ泣くばかりで何も言えませんでした。偶然、二人の諍いを目撃した誰かによって、この噂は会社のみんなが知ることになりました。若気の至りと言えばそれまでですが、そんな目に合ってもさゆりちゃんは挫けませんでした。若さは強さでもあるのだとつくづく実感した騒動でした。

mikonacolon