人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

布団が空から降ってきた

布団をどうするか、で自治会長の人間性を疑う

 マイナポイントをコジカカードで受け取ることにしたので、昨日近所のスーパーに確認に行った。ポイントが入っているかどうかは店内にあるチャージ機で調べることが出来る。こういった情報は事前にネットで確認してからいったので、まごつくことはなかった。普段は現金主義でチャージして使ったことがなかったので、「利用履歴」で入金が確認できるとは知らなかった。コジカの場合は申し込みの翌日にポイント付与なので、履歴のボタンを押して、カードを所定の場所に置いたら、7500円づつちゃんと入っていた。

 入金が確認できた私は、ウキウキして、さて、何を買おうかと考えた。いつもの買い物をするしかないかと思った瞬間、待てよ、ともう一人の自分が囁いた、「こんなときだから、こんなことは滅多にないのだから、いつもは絶対買わないものを、いや、高くて手が出ないものを買おう」と。それで、私は、いつもの268円の根釧牛乳ではなく、398円もする種子島牛乳を、スモークサーモンは特売の598円ではなく798円もするワンランク上の商品を、さらに普段はその値段を見てすぐ諦める一個298円もする高級梨を、この時とばかりにカゴに入れた。

 久しぶりに楽しい買い物をした嬉しさで舞い上がっていると、偶然に知り合いのMさんに出会った。Mさんは半年前に隣町の市営住宅に引越した人だ。でも、どうして夕方の遅い時間にこのスーパーにいるのか、不思議に思って聞いてみた。すると、あちらのスーパーでは自分の好みの物がないらしく、そのため今でも週に一回程度は買い物に来ているのだと教えてくれた。Mさんと少し世間話をしたのだが、その日は朝からちょっとした事件が起きたらしい。それは次のようなことだ。

 Mさんは韓国ドラマを見ながら、朝食をとるのが習慣になっていて、その日も口をモグモグさせながらドラマを楽しんでいた。テレビのある部屋はベランダに面していて、外の様子がよく見えた。ドラマに夢中になっていたのだが、その時はベランダから何やらピンクの物体がふわりと落ちるのを見てしまった。ちょうどドラマの展開が佳境に入ったので、気にせず見続けようとした。だが、あれは何だったのか、気になって見るのをやめてしまった。Mさんはすぐに7階の部屋から外に出て階段を駆け下りた。団地の木が生い茂っている敷地を見て回ったら、布団が落ちているのを発見した。

 どうやらMさんが見たピンクの物体は敷布団でピンクのカバーがかかっていた。この布団の持ち主はどうしたのだろうか、まだ布団が落っこちたことに気づいていないのだろうかとあれこれ考えた。だが、すでにMさんは布団を拾い上げて、両手で抱えていた。最初はただ、何が落ちたか確かめに行っただけだが、それが布団だとわかった途端、このまま放ってはおけなくなった。きっと自分の上の階の誰かの布団に違いないと見当をつけたMさんは、エレベーターで8階に上がってインターホンを押した。12階までの部屋の住人に聞いて回ったが、誰もベランダに布団を干していないと言う。

 布団をどうしようか悩んだMさんは、自治会長のことを思い出して、10階にある部屋を訪ねた。幸運にも彼は在宅だったが、Mさんが事の子細を話すと、「お宅でしばらく預かっておいて」などと言うので、置く場所がないと断った。それに「僕のところにも場所がないからね」とそっけないので、「どこか置いておける場所はないのですか」とさらに尋ねた。すると、「団地の集会所もあるけど、ちょっと邪魔になるからね」といい顔をしない。そして、挙句の果てに、「そんなの、木の上にでもひっかけておいたらいいんじゃない」などと、とんでもないことを言ってのけた。

 Mさんは内心、布団は汚れたり、濡れたりしたらどうにもならないのに、なんてことを言うのだ、この人はと耳を疑った。そんな感情は一切顔に出すことなく、「それでは、1階のポストの脇にベンチがあるので、そこにでも置いてあげたらどうですか」と提案した。それを聞いて、自治会長は「そうだね、それがいいかもしれない」と言うと何を思ったか、家の中に入って行って、ビニールひもを手に持って出て来た。ビニールひもをどうするつもりだったのか、定かではないが、その後すぐに事態は好転した。

 Mさんと自治会長がエレベーターで1階のエントランスに降り立った時、あるひとりの男性に出会った。その人は手に毛布を抱えていた。それでMさんは、すぐに状況を察知した。もしかしたら、ではなく、間違いなくピンクの布団の主はこの人なのだと。その見るからに人の好さそうな男性は、12階の端っこにある10号室の住人だった。Mさんの予想は残念ながら外れていて、10号室のベランダに干してあった布団が強風にあおられて8号室まで飛んで行ったらしい。そして、下の階にある708号室のMさんのベランダから布団が落ちる様子が目撃されたのだ。

 

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