伊藤理佐さんっていったい何者?
朝日新聞の朝刊には週に一度『大人になった女子たちへ』というエッセイが連載されています。イラストレーターの益田ミリさんと漫画家の伊藤理佐さんが担当していて毎回楽しめます。ミリさんには日常生活のなかでふつうの人が見過ごしてしまう宝物に気づかせてもらっています。なんの変哲もない出来事に潜む秘密をそっと教えてもらう感覚になります。その一方で、私は伊藤さんについては、申し訳ないのですが何も知らないのです。文章の終わりに(漫画家)と書いてあるので、「ふ~ん、この人は漫画家なのか」ぐらいにしか思っていなかったのです。毎回ギャグマンガのようなイラストが載っている。普通のことが面白おかしく書かれていて、文章に独特のリズムがある。文章もイラストと同様に楽しんでいる感が満載なのです。それに内容も普通の女子に共感されること間違いなしの、「それ、わかる、言えてるよね」的な話題でした。
ところが、ある日のタイトルの『チョーを決めるには』を読んで仰天しました。あまりの指摘の鋭さに感心したのです、それも最後の最後で。それでも伊藤さんはちゃんと話の落ちを付けるのを忘れなかったのですから素晴らしい。最初はなんてことないある幼稚園の新学期の係りを決める、つまり保護者から代表を決めるようなチョー選びの話題から始まりました。普通はみなさんが一堂に集まり、独特の緊張感の空気が流れる中でチョーが決まるのですが、今年だけは園長のご指名でほぼ決まったとのことでした。
一番頼りない若い人をチョーに?!
驚くべきことに、なんと年少のクラスのチョーになったのは、若くて、いかにも優しそうなママで、しかも2人目を妊娠中!誰もが「いったいその園長は何を考えてるの?そのママが気の毒だと思わないの?」と憤慨し心から同情しました。しかし当の園長は涼しい顔で自分の判断は1mmたりとも間違っていないと胸を張ってこう言ったのだとか。「しっかりした人がなると皆が意見を言いづらい。優しい年上の人がなっても気を遣う。若くて妊娠中だと、みんながお手伝いしてくれる、助け合う、協力する。だから、年少さんはこれでいいのです」と。
伊藤さんが言いたかったことは
これには誰もが、「お見事!」と口をむ余地などあるわけもありません。園長はこれまでの経験に裏打ちされた肌感覚に基づいてチョーを選んだわけです。ちなみにほかの年中、年長のチョーは全く別タイプの人がご指名を受けたのだそうです。いわゆるその年の「色」を見て決めているわけで、園長はかなりの自負をもって采配をしているのでしょう。そんなふうに無防備に感心していると、伊藤さんがすかさず、「近所の幼稚園でさえ、この采配。近所の幼稚園でさえ、ですよ。国は・・・」と鋭い指摘。恥ずかしいことに、それでやっと気が付きました、自分の国の総理大臣のことに!
自分の愚かさに呆然としていると、そのあとは「ちょうどその時、ホチキスのタマが無くなってカスっとなった」で文章を締めくくったのです。どうやら資料のホチキス止めをしながら母親同士で井戸端会議をしていたようです。的を射た後も最後に話の落ちを忘れなかった伊藤さんに「座布団10枚」あげたいくらいです。
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