人生は旅

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お風呂の効用

今週のお題「お風呂での過ごし方」

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▲パリのオペラ座のファザード。NHKまいにちフランス語テキストから。

お風呂は人によっては痩せる場所だった?

 もう何年も前、あれは会社のお昼休みのことでした。同僚たちが何かの話で大いに盛り上がっていました。その場に偶然通りかかった私は、何がそんなに面白いのか興味津々で好奇心を抑えられませんでした。聞いてみると、彼女たちの今の一番の関心事はお風呂で痩せる話で、それも痩せるせっけんの話題が尽きないのでした。何でも中国製の海藻を使ったせっけんを毎日使うだけで、痩せる?というものでした。せっけんの成分が身体の脂肪を分解して、それだけで自然と痩せられるという能書きなのです。少し考えてみれば、そんなことはあり得ません。そんなせっけんがこの世にあったら、それこそ魔法のせっけんです。そんな科学的根拠がないことを人が信じるわけがないと思っていたら、人間の心、いいえ、女の心は窺い知れません。雑誌でもテレビでも宣伝されて、爆発的に売れました。

 誰もが「そんなことあるわけない」と内心思っているのですが、嘘でもいいから試してみたいと言う気持ちにさせられてしまうのです。バカ高い物ならいざ知らず、値段がたしか高くてもひとつ2千円くらいという手頃な値段なのでなおさらです。何よりお風呂で身体を洗いながら、ひとときの夢を見られるではありませんか。特に女心は複雑なので、「そんなのバカげてる」だの「あなたたちは騙されてる」だのなんて、そんな反感を買うことは口が裂けても言えません。だから「もし本当にそのせっけんが効いて痩せたら、すごいよね。楽しみだね」なんて心にもないことを言うしかないのです。彼女たちの話に水を差すより、希望を持たせた方が何かと仕事をする上で風通しがいいからです。真実はひとつなのですが、やたらにそれを指摘しすぎると嫌われてエライ目をみることになります。

 さらに彼女たちのお風呂で痩せる話はエスカレートし、浴槽の中で身体をマッサージするとその部分が痩せると言うのです。例えば、お腹の肉をつまんで揉み解すと脂肪が分解するとか、そんなバカな話はないのですが、とにかくやらないよりはやった方がいいという意見なのでした。それで毎晩お風呂に入る度にその作業をするのが習慣になったようなのです。「ふ~ん」と大人しく聞いていたら、今度は足に関する話になりました。彼女たちの話によると、お風呂で足を塩でよく揉むと引き締まった足、つまり足が細くなると言うのでした。つまり足にへばりついているお邪魔虫の脂肪とさよならできるのでした。後日、何かの記事に「人の足はキュウリではないのだから、そんなの意味がない」という鋭い指摘の意見が載っていました。

 毎日の入浴に美容にいいことを期待しすぎると、なんだか常識では考えられないようなことをしてしまうようです。痩せるせっけんを愛用していた仲の良い同僚に効果のほどを聞いてみたかったのですが、あれからどうなったのか全く記憶に無いのです。思えば、彼女は痩せるために効果があると言われるものには何でも手を出していました。痩せるお茶とか、ダイエットスリッパとか、なので、たとえ痩せたとしてもいったい何が効果があったのかはわからないでしょう。たぶん「もしかしたら、そんなことが!」みたいな奇跡を密かに期待して楽しんでいたのかもしれません。実際の彼女の体型に変化はあったのか、という問題については見たところはほとんど変化なしでした。

 当時の新聞の川柳のコーナーに載っていたのは、誰かの「瘦せる石鹸使って痩せたのは我でなく石鹸なり」の言い得て妙の一句。思わず大笑いしてしまったのですが、どうやら夢からお目覚めのようです。いいではありませんか、ひとときの夢に浸ることができたのですから。

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