人生は旅

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高校時代のお弁当

今週のお題「お弁当」

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▲稲葉由紀子著の『パリのお惣菜』から

綺麗なだけのお弁当が美味しいと思えなかった

 高校の頃、私はいつもお弁当の時間が楽しかった記憶があります。なぜなら毎日食べるお弁当がとても美味しかったからです。その頃のお弁当は兄のお嫁さんのミチコさんが作ってくれました。ミチコさんはとても料理が好きでじょうずでした。母は私が中学生の時に病気で亡くなりました。それで代わりにミチコさんが兄の分を作るついでに私の分も作ってくれるのです。ミチコさんのお弁当はボリュームがあって見るからに食欲をそそりました。ホウレンソウ入り卵焼きやぶりの照り焼き、から揚げ、ハンバーグ等、どれも美味しいおかずでした。友達のエミちゃんが私の弁当を覗き込みながら、「お姉さんが作ってくれるんだ。いいなあ」と羨ましそうに言いました。

 実を言うと、エミちゃんは高校になってからずうっと自分でお弁当を作っているのです。その理由はお母さんが継母で折り合いが悪いからです。お祖母ちゃんも居るのですが、心優しいエミちゃんは負担をかけたくないので自分で作っているのです。今から考えると、やることが膨大にある高校生が毎朝早起きして、弁当を作るなんて、「あんたは偉い!」と褒めてあげたいです。でも高校生で自分勝手な私は「ふう~ん、そうなんだ」で終わりにしていたのです。エミちゃんのお父さんは小さな不動産会社の社長さんでした。お金はあるはずなのに、なぜかエミちゃんのおかずはワンパターンでいつも卵が多かったようです。それで毎日違うおかずが入っている私の弁当が気になっていたのです。でも驚くべきことに、エミちゃんはできるだけ安くおかずを作ろうとしていたのです。卵1個でどれだけ工夫しておかずを作れるかを考えていたようで、私とは金銭感覚が違うのでした。卵2個も使うのはもったいないと感じていたのですから。

 エミちゃんの家に遊びに行ったら、義理の妹がピアノを弾いていました。すると、エミちゃんは妹に向かって「のりちゃん(妹の名前)、もっと練習しないとうまくなれないよ」と言いました。それを聞いた妹はしかめっ面をして部屋から出て行ってしまいました。妹はまだ幼く幼稚園に通っている年齢です。普通ならそんなことは言わないはずです。でもエミちゃんとしては言わずにはいられないのです。母親が亡くなって、何年か経って再婚した父親にも不満があるようでした。遊びに行くとたまに義理の母親に会うこともありましたが、軽く挨拶するだけで話をしたことはありません。あちらもなるべく私たちとは関わりたくないようでした。エミちゃんは「お父ちゃんも、あんな身体の弱い人と結婚しなくてもよかったのに」といつも嘆いていました。そんなエミちゃんの心のよりどころはお祖母ちゃんとネコたちでした。植木でいっぱいの庭にはいつも何匹かの猫たちがいました。お気に入りのネコの名前は「変則パンダ」で、あの人気者のパンダとは模様が逆になっていたからそんな名前になったのです。いずれにせよ、複雑な思いを抱えたエミちゃんはネコたちに救われていたのでした。

 高校時代、お弁当はたいてい仲良し同士で食べるものと決まっていました。だから他のグループの人達のお弁当を見る機会はありませんでした。それにたいして興味もなかったのですが、ある日その機会が偶然やって来たのです。どうしても用事があって、食事中に話しかけたときにカラフルな色どりの弁当を見てしまいました。よく見ると、赤はミニトマトとウインナー、黄色は卵焼きで、緑はたしかブロッコリー。正直な感想は「なあ~んだ、大したことないじゃない」でした。美味しそうとはとても思えなかったのですが、見た目がいいなあとは思いました。今でいうインスタ映えするお弁当です。たぶん、あの頃の私は義姉のミチコさんが作るお弁当が大好きで、他の物は眼中になかったのです。今思えば、私の高校時代のお弁当の時間は至福の時だったのでした。

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