人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

父が作ってくれたお弁当

今週のお題「お弁当」

f:id:mikonacolon:20210426185628j:plain▲どれも美味しそうなので、いつも何にしようか迷います。そんな私に友達がしてくれたアドバイスは「量が減っている物、つまり売れている物を買えば失敗はない」でした。稲葉由紀子著『パリのお惣菜』から。

父のお弁当はユニークで精一杯の愛情が詰まっていた

 私の中学の時のお弁当は父が作っていました。当時母は病気で入退院を繰り返していたので、娘の弁当を作る人がいませんでした。それで父が仕方なく作らざるを得なかったわけです。とはいえ、父はそれまで料理などしたこともなくて、どれだけ大変だったかは想像できます。それでも、何とかして弁当箱のおかずのスペースの隙間を埋めなくてはなりません。弁当のおかずの定番は何と言っても卵焼きです。甘くても、しょうゆ味でも何でも美味しいのですが、父のはところどころ焼き焦げがある卵焼きでした。料理初心者の戦いの跡が感じられる作品でした。私はそれを「お父ちゃんなりに頑張ってるなあ」と思いながら食べていました。それから、赤ウインナー、皆はたこさんウインナーみたいに可愛いのが入っていたのに、私のは焼き過ぎていたような気がします。 

 今から思えば、作ってもらえるだけ幸せだったのです。父は仕事と家庭の両立で悪戦苦闘していたのですから。ドラマでは父親のお弁当作りは面白可笑しく脚色されているのが普通です。お弁当箱を開けたら、なんと食パンが1枚だけ。その理由は忙しくて買い物するのを忘れたからで、悪いなあと謝られてしぶしぶ納得。また、ある日はお弁当箱にご飯が敷き詰められていて、これでどう食べろというのかと不思議に思っていたら、ちゃんとついていました、レトルトカレーが。あるいは弁当箱にバナナだけとかで、見ていて大笑いしてしまいます。でも、現実は「小説よりも奇なり」で意外な物を見せられることになります。

 私が父のお弁当で一番ギョッとしたというか、冷や汗がでる思いをしたのはおかずに魚肉ハムが入っていた時でした。天国からいつも私を見ていてくれる父には申し訳ないのですが、バラしてしまうことにします。魚肉ハムというのは、オレンジ色のビニールで包まれており、食べるときはそれを剥がします。その後包丁で輪切りにして、フライパンで焼いて食べると美味しいので、私は大好きでした。当時の魚肉ハムは今のようにソーセージっぽくなく、素材がよかったのか、肉の味がしたからです。あの日、いつものように弁当箱を開けると、目の前に輪切りの魚肉ハムが現れたので、一瞬喜びました。でもよく見るとオレンジ色をしているので、「お父ちゃん、まさかビニール剥がしてない!」と仰天し、慌てて弁当箱の蓋を閉めました。「誰かに見られたらまずい!」と防衛本能が自然と働いたのです。私の気持ちなんてこの際どうでもよかったのです。とにかく他人にどうのこうの言われるのが嫌だったのです。このとんでもない光景を見られたら友達にからかわれると思いました。それだけは避けたかったのです。

 それから私は一度は閉めた弁当箱の蓋を少し開けると、魚肉ハムのビニールを剥がし始めました。何とか周りに気づかれないように剥がし終わると、何事もなかったかのように弁当を食べ始めました。後にも先にも、お弁当であんなスリリングな体験をしたことはありません。でもこんな話をするのは父に悪いような気もするのですが、もちろん本人には学校で困ったことは秘密にしました。結局、私が中学1年生の冬に母が亡くなったので、中学時代のお弁当は父の担当になりました。人間というのは「習うより慣れよ」で最初の頃のユニークな失敗にめげずに、父は弁当を作り続けました。私は父の精一杯の愛情のこもった弁当のおかげで、何不自由ない中学時代を送れたのです。

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