人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

あなたはいったい何者!?

今週のお題「試験の思い出」

模擬試験での不思議な出会い

 あれは遥か昔の出来事で、大学受験に失敗して、田舎で浪人生活を送っていた頃の話です。と言っても、あの頃の私に確固とした目標があったわけでもなく、何になりたいとかいう夢もありませんでした。要するに、とりあえず大学に入って、そのうちにおいおい決めればいいと考えていたのです。モラトリアムの期間を得るために大学に入ろうと思っていました。なので、勉強に熱中すると言うわけにもいかず、正直勉強は嫌いでした。意志が弱い自分に鞭を打って嫌々やっていたのが現実で、気分転換と称して、電車で1時間程かかる都心によく遊びに出掛けていました。中でも私が好きだったのは、ミュージカルで、特に『屋根の上のバイオリン弾き』が好きでした。

 あの頃チケットを買って舞台を見に行ったことはなくて、いつも直接劇場に行ってキャンセル待ちをすれば必ず見られたんです。それも一番いい席が手に入ったので、俳優の表情や動きが手に取るようにわかりました。同じ場面でも「あれ、今日はちょっと違うなあ」という変化を見つけるのも楽しみでした。テレビでよく見かける俳優さんがいつもとは打って変わって、まるで歌手並みの歌声を聞かせてくれた時は勘当したものです。

 そんな楽しみもあった浪人生活でしたが、あくまでも勉強が中心です。なんとかやる気を出すために、目標を見つけるためにも代ゼミ主催の模擬試験を受けることにしました。あれはちょうど学校が夏休みの時期で、模擬試験の会場は都心にある某有名大学でした。私の家から会場までは電車を2回乗り換えなければなりません。試験当日の朝、私は乗り換え駅のホームで電車を待っていました。すると、後ろから「○○大学に行く電車はここでいいのですか」と言う誰かの声がしました。振り向くと、若い男性が立っていたので、「この人も試験受けに行くんだ」と思いました。

 同じ会場に行くのと、お互い立場が同じなので話が弾みました。私は私大の文学部志望なので、試験は国語と英語の2教科なので午前中で終わりです。でも彼は国立大志望なので午後にも数学の試験がありました。二人であれこれ話していたら、大学の正門の前に着いたので、これで彼とはそれっきりになるはずでした。でもそうはならなかったのです。なぜかと言うと、彼が「なんか今日はあまり調子が良くないから午後の試験はやめにする。だから試験が終わったらここで待っていてくれないか」と言ったからです。

 その時の私は何も考えていなくて、「それならそれで、まあいいか」と快諾したのです。試験が終わったので大学の正門で待っていると、本当に、いや別に冗談でもよかったのですが、彼が現れました。開口一番、「お腹空いたね、何か食べに行こう」と言ったので、私たちは駅前のハンバーガ店に入りました。チーズバーガーとコーラを食べながら、またおしゃべり。今から思うと、私たちは受験生なのにあんなに遊び惚けていたなんて考えられません。しかも彼は信じられないことに数学の試験をサボったのですから。でもひょっとして、あれは彼なりのつかぬ間の息抜きだったのかもしれません。それから私たちはショッピングセンターに行き、ゲームセンターで遊びました。

 喉が渇いたので、喫茶店でアイスコーヒーを飲んだ後、通りを歩いていたら、何やら真っ昼間からキラキラした店がありました。それはパチンコ店でした。すると彼が「ちょっとやっていこうか」と誘ったので、好奇心全開の私はついて行くことにしました。パチンコをするのは初めてだったのですが、その時は嘘のように玉が出たんです。「すごいねえ、本当に始めて?」と呆れられました。景品のぬいぐるみを抱いて私は有頂天になっていました。でも楽しい時間はあっという間に過ぎて、お別れの時がやってきました。その日の飲食代もパチンコのお金もすべて彼が払ってくれました。なのに私ときたら、彼の名前もどこに住んでいるのかも知らないんです。

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