人生は旅

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今週のお題「わたしの実家」

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安住の地を見つけたミチコさんのこれからは

 私の実家は昔はタバコ屋をやっていて、90歳まで長生きした祖母が主に店先に座っていたと聞いたことがあります。でも私が生まれた頃はもうその名残りはなくて、唯一それを証明してくれるのは「タバコ」と書かれたプレートだけでした。長男が大阪に出て、次男も別に家を持ったために三男だった父が家を継ぐことになりました。父は測量士で役所に勤めていて、畑仕事は母の役目でした。おそらく家計の節約のためなのですが、小さな畑で家で食べるだけの野菜を作っていました。

 その畑も今では見る影もなく、草にまみれているのですが、敷地の半分のスペースには次男の家が建っています。ちょうど兄がガンで亡くなる直前に、畑に面した道路が拡張されることになりました。市の方としてはあくまでも一部分だけ必要なのですが、兄が交渉してある程度の土地を買い取ってもらうことができました。その時得られたお金は後に残される妻のミチコさんへの絶好のプレゼントになりました。よくマスコミでも問題になっているではありませんか、夫に先立たれた妻がどんなに悲惨なことになるかを。

 以前にも兄夫婦はすでに離婚したと書きましたが、周りも私も皆があの時すべてが終わったと思いました。当のミチコさんでさえもう二度と兄に会うことはないと思ったのです。ところが”事実は小説より奇なり”で、信じられないことですが兄がミチコさんに会いに行きました。これはまたとんでもないことで、自分が「出て言ってくれ!」とお願いした相手にどんな顔をして会いに行ったのか、このことをミチコさんから聞かされて仰天してしまいました。その頃ミチコさんは一人でアパートに住んでいて、ピンポン!と呼び鈴が鳴ったので、ドアを開けたらそこにはもう顔も見たくない元夫がいました。

 ドラマならこういう時は冷たくあしらって追い返すという場面なのですが、実際はそうはなりませんでした。気のいいミチコさんが兄の話を聞いてあげると、「家が改築中でどこにも行き場がないから、お前のところにおいてくれないか」と頼まれました。普通ならそんな都合のいい話を承諾する筋合いはないのですが、ミチコさんは気の毒に思って兄を受け入れました。私が呆れているのがわかると、「私って、やはり甘いのかなあ」とため息をつきました。ミチコさんは誰が見ても正真正銘の”都合のいい女”でした。

 それからは兄はミチコさんの部屋で寝泊まりし、食事や洗濯に至るまでミチコさんが面倒を見ました。兄は家の改築が終わるまでミチコさんのアパートに居続けました。そのことで感じるものがあったのでしょうか、ミチコさんに家に戻ってくれるように頼みました。それでミチコさんは最初は自分のアパートと実家を往復する生活をしていました。なぜなら自分でも猫を数匹飼っていて面倒を見なければならなかったのと、兄に対する不信感があったからです。人の性格はそう簡単には変わらないことは百も承知です、でも相手が困っているのだからとボランティア精神を発揮したのです。予想通り兄の性格は変わることなどなく、二人の関係はぎくしゃくしたのですが、それでも繋がりは無くなりません。

 兄が飼っていたシーズ―が子供を産んだので、ミチコさんは放って置けなくて実家に立ち寄ります。ひどいことを言われても、犬たちが可愛いので仕方ありません。後からミチコさん聞いた話によると、得意先に招待されて旅行に行った時に知り合った女性と付き合っていた時期も兄にはあったようです。それでも、二人の縁は断ち切れないというか、ミチコさんの人のよさに兄が身勝手に甘えるでせいで、世に言う”腐れ縁”となりました。

 ミチコさんが本当の意味で、兄と復縁しようと決断したのは、年とってからどうするかを真剣に考えたからでした。アパートの家賃のことや貰える年金の額を考えると将来が不安になりました。はっきり言って、二人の間には世間でいう夫婦の愛情はないのですが、お互いを必要としているのは確かでした。兄にとってミチコさんは遠慮なく何でも言える同居人で、本当に都合のいい女でしたが、そんな人がいることはとても幸せなことでもあるのです。

 ミチコさんが今追求しているのは毎日をできるだけ楽しく過ごすことです。時代の流れや社会の変化に関係なく、個人的な小さな幸せを大事にして生きていく、それだけです。この間ミチコさんはふと呟きました、「今のような生活ができるのはあの人(兄のこと)のおかげなの」と。

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