人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

夜中に友と食べた牛丼

今週のお題「肉」

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サラマンカにあるサン・エステーバン修道院聖堂主催壇の衝立。NHKまいにちスペイン語テキストから。

夜中にお腹が空いて、誰かが「吉野家に行こう」

 先日駅前を歩いていたら、家族連れが4人で牛丼店のすき家に入るのを見かけました。一瞬「家族ですき家で食事するの!」と意外な行動に戸惑ってしまいました。すぐにいやいや、時代は変わったのだと自分に言い聞かせました。そう言えば、入ってすぐ4人掛けの席があるのが外からでもわかっていました。私の知る限り、チェーン店の牛丼は男性がご飯をガッツリ食べたいときに食べる物で、女子供には縁がない物でした。でもそのイメージはもはや過去のもので、若い女性ひとりでも躊躇することなく店に入って行く人を見かけるようになりました。

 都会で一人暮らしをしていた頃、同じアパートに住んでいる女の子たち二人と知り合いになりました。ひとりは佐賀出身で和裁の学校に通っているスズメちゃんで、もうひとりは観光専門学校でホテルのコンシェルジュになる勉強をしているアキちゃんでした。スズメちゃんは「いつでも部屋に遊びに来ていいからね」と私を歓迎してくれました。いつ行ってもおそらく学校の課題なのか何か縫物をしていた気がします。「東京に出してくれた両親のためにも絶対一人前になる」と夢に向かって懸命に努力していたのです。アキちゃんは私が着る服がなくて困っていると、ある日突然山のような洋服を持って来てくれました。びっくりして呆然としている私に「気に入ったのがあったら着てみて」とだけ言うとサッサと帰ってしまいました。

 私たちはいつもスズメちゃんの部屋に集まり、たわいもない話をして盛り上がっていました。安アパートの窓には網戸が付いていないので、窓を開けておくと、いろんなものが侵入してきます。例えば、急にバサバサと音がしたと思ったら、何かが狭い部屋を飛び回るので、こちらは怖くなって逃げ惑います。それがスズメだとわかると3人で必死になって追い出しにかかり、ピタリと窓を閉めて一息ついたこともありました。暑い夏の夜には何か虫が入ってきて、蛍光灯の下を飛び回っていました。茶色くて大きめな虫だったので、勝手に想像してカブトムシに違いないと皆思いました。でもよく見たらできれば会いたくない嫌な奴、つまりゴキブリだとわかってギョッとしました。

 あの日、夜中まで3人で話し込み、誰かが「なんかお腹が空いたね」と言い出しました。そう言われると、急に何か食べたくなりました。それもお菓子ではなくて、お腹にドーンと溜まるもの、満腹感が感じられるものがいいなあと思いました。それじゃあ、あれしかないと、「駅前にある吉野家に行こう!」と言うことになったんです。当時は吉野家に入る人は皆私たちから見たらおじさんばかりで、それまで一度も店で牛丼を食べたことはありませんでした。その頃は牛丼と言えばまだ吉野家が全盛だった時代で、テレビでCMもやっていて、見るからに美味しそうで食欲をそそられました。ひとりで店に入る勇気?はないけれど3人でなら平気でした。それが夜中であっても全然大丈夫で、いざ店に行ってみると、夜中だからなのかお客さんはポツン、ポツンとしかいませんでした。昼どきの喧噪とは打って変わったような静けさの中で3人で牛丼の並盛を食べました。

 初めて食べた吉野家の牛丼は友と語り合いながら食べた記憶に残る一杯でした。肉はたしかアメリカ産だったと思うのですが、よくこんなに薄く切れるなあと感心しました。味付けは日本人好みの甘辛で飽きの来ない味でした。でもあんなに美味しさに感激したのは、実は真夜中という状況で、しかも仲の良い友だちがいたからなのでした。

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