人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

乳牛ってミルクを出す牛?

この歳までずうっと信じてた、ミルクを出す牛だと

 NHKの夜ドラマ『作りたい女と食べたい女』の中で、野本さんと春日さんが一緒にローストビーフを作る場面があった。気を利かせた春日さんがわざわざ500グラムの牛肉のブロックを買ってきてくれたからだ。美味しそうに出来上がったローストビーフをうっとりと眺めながら、野本さんが「牛肉って高くて滅多に買わないから、なんか特別感ありますね」と呟いた。それを聞いていた春日さんも「わかります。私もスーパーの牛肉コーナーは通りすぎます」と同じ思いのようだ。

 そうなのだ、かくいう私も真っ当な牛肉というものを買ったことはない。国産牛は高いので自然と敬遠し、どうせ買うなら輸入牛の特売でそれも量の多い物に限られる。どう見ても味は国産牛と比べると見劣りし、牛肉特有のあのミルクっぽさが全然ないので物足りない。それに何か独特の臭みが感じられて、最初のうちは気になって仕方がなかったが、今ではそれにも慣れた。

 それにしてもなぜ牛肉はこうも高いのだろうか、という疑問はずうっと付き纏っていた。ただ、日々の忙しさに紛れて、そんなことはどうでもいいかと気にしないようにしていた。そんなとき、朝日新聞の土曜版にある『知っ得なっ得』の記事を読んで目から鱗だった。それは牛肉の話で、普段はよく見たこともないが、それに牛肉なんて縁がないから余計にだが、牛肉のパックには個体識別番号というものが記載されている。つまり、その番号をたどっていけば、選んだ牛肉の来歴がわかるというわけだ。「その牛がどこで生まれ、誰がどこで育てたか・・・といった情報がスマホでみられる」らしい。

 ええ~!?そんなことになっていたのかと寝耳に水の私は、早速買い物がてら、スーパーの牛肉売り場に確かめに行った。買う気など毛頭ないが、見るだけならいくらでも自由にできる。そこにあったのは名前だけは知っている飛騨牛でも、宮崎牛でもないグランド名だったが、ちゃんとパックにはロット番号というものが記載されていた。側には輸入牛もあったのでついでに見てみると、それには何も書かれてはいなかった。

 この記事で特筆すべきは、パックに「国産牛」と表示されている牛はどんな牛かを明らかにしている点だ。想像してみたら、誰だって普通は黒毛のウシを思い浮かべるだろう。だが、実際には「国産牛と書いてある場合、ほとんどは白黒まだら模様の乳牛なんだ」そうで、「乳牛は子供を産むことでミルク(牛乳)を出すようになる。3回ほど出産して5歳前後になると、食肉の肉として出荷される。それを国産牛というラベルを貼って販売しているんだ。そもそもミルクを出さないオスの乳牛は2歳くらいで食用に出荷される」というわけだ。

 ではなぜ値段の違いがあるのかと言うと、紙面では「同じ国産牛なのにグラム当たりの値段が違う商品が並んでいたら、たいていは高い方がオスだ。オスは最初から肉として食べるために育てられるから、柔らかい、いい肉とみなされている」と説明されているので、なるほどそうだったのかと膝を打った。スーパーでよく見かける「黒毛和牛」と表示されている牛肉もそういった部類なのだと初めて知った。

 自分にとって牛肉は縁遠くても、牛乳なら毎日飲んでいて身近に感じる。実を言うとこの記事を読んで、乳牛はミルクを出す牛という固定観念がガラガラ崩れてしまった。恥ずかしながら、乳牛は生まれながらにしてミルクを出す牛だなんて、とんでもない幻想を抱いて、それを信じていたのだからおめでたい。いや、以前にも日経のコラムの中で、長野でワイナリーを経営するエッセイストの玉村豊雄さんが指摘していたのだ。乳牛はいつも繁殖させられて、ミルクを出し続けさせられているのだと。人間の勝手な都合だけで利用されている乳牛の苦しみを知るべきだと。

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