人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

あったか~い思い出

今週のお題「あったか~い」

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▲上海郊外にある淀山湖の風景。NHKまいにち中国語テキストから。

かつ丼を食べるたびに思いだす母との思い出

 以前友だちとファミレスで食事をした時、何の話からかかつ丼の話題になりました。たしか、その時彼女はかつ丼を、私は焼き魚定食を注文したと思うのです。かつ丼を食べながら、彼女がふと「ねえ、どうしてサクサクのカツに卵掛けちゃうのかなあ」と呟きました。「そりゃ決まってるじゃない、卵でとじた方が美味しくなるからよ」

 そう答えたものの、彼女はやはり故郷のかつ丼が懐かしいらしいのです。彼女は名古屋の生まれで、小さい頃からかつ丼といえば、味噌カツでした。ジュワッと揚げたサクサクのカツに赤みその甘辛いタレをかけた丼ものです。それがかつ丼だと信じて疑わなかったので、上京してかつ丼を注文して、それが運ばれてきたときは仰天しました。「なんだこれは!?」。その時初めて東京ではアツアツのカツにわざわざ卵をかけてべちゃべちゃにするのだと知ったのです。最初は見た目がなんだか気持ち悪そうでしたが、「騙されたと思って食べて見て!」と一緒に居た友達に勧められて食べてみました。そしたら、味は見た目ほど悪くない、というより美味しいと感じてしまったのです。確かにカツのサクサクの衣はふにゅふにゅになってしまったのですが、卵とのコンビネーションは最高です。口の中に入れるとトロトロして、まろやかで何とも言えないのです。郷に入っては郷に従えで、彼女も次第に東京の味に慣れてきて、かつ丼の味も普通に受け入れるようになりました。

 彼女がまだ小さい子供だった頃、両親は夫婦仲が良くなかったようで、いつも口げんかをしていたそうです。母親はバスで30分のところにある実家によく行っていました。今から思うとそうやってストレスを少しづつ発散させていたのでしょう。子供心にどうして離婚しないのだろうと思っていたくらいですから。そんなある日、いつものように祖母のところに行くのかと思ったら、実家とは違う降りたことがないバス停で母親は降りようとしたのです。「あれ、今日はどうしたのだろう?」と思いながら母親について行くと、そこはかつ丼で有名なお店でした。もちろん、当時はそんなことは知る由もなく、大人になってから老舗だとわかったのですが。

 店員さんに案内されて、席に着き、外の様子を眺めると日本庭園が広がっていていました。実を言うと、母親はたまにデパートの食堂に行っても、娘にだけ好きなものを食べさせて、自分は家から持ってきたおにぎりを食べていたのです。そんなケチな、というか倹約家の人がこんな贅沢をするなんて考えられませんが、母親の気持ちを考えるとなんだかわかる気がします。つまり、気分転換だったわけで、友だちはそれに便乗したのですがとても美味しい体験をしたのです。親子で一緒に美味しい味噌カツを食べていたら、なんだか気持ちまで暖かくなりました。母親は日頃からイライラすることが多いのに、この時だけは何もかも忘れられたようで、終始笑顔でした。疲れ切って汚れてしまった心の洗濯をしていたのか、そう錯覚してしまうようなひとときでした。

 人はお腹が空いていると、どうしても悲観的になる傾向が強いようで、まずはお腹一杯になってから再度考えよう、などという場面にドラマで出くわすことが最近多いです。精神的、かつ経済的にも追い詰められていて、それどころじゃない、そんな気になれなくても、まずはお腹を一杯にして、気持ちをリセットするのです。友だちの場合はそんな深刻な問題でもなかったようですが、いずれにせよ母親は気持ちを切り替えることができたのです。その後、母親は体の具合が悪くなって、彼女が中学に入るとすぐに亡くなりました。だから彼女にとっては味噌カツを食べたあの店でのひとときが忘れられない思い出となったのです。

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