人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

新茶のことで問い合わせたら

店員は親切、それとも、押し付けのどちらか

 私にとって、また新茶の季節がやってきた。世間でいう新茶は4月下旬から5月が一般的だが、私の待ち望む新茶は11月の初めごろに発売される。それは毎年、年末になると買い出しに出掛ける市場にあるお茶屋さんのお茶だ。その名前は「冷凍口切り茶」といって、春に摘んだ新茶をマイナス25℃で瞬間冷凍させて、初冬まで熟成させたもの。茶葉の袋を開けた途端、何とも言えない芳醇な香りにうっとりする。もちろん、飲んでみたら、その濃くと甘みで心が満たされる。

 先日10月の終り頃に待ちきれなくて、店に問い合わせてしまった。去年は確か高齢の女性が穏やかな語り口で「それなら、もう入っておりますよ」と答えてくれた。それで今年もその人が出てくれるものだとばかリ思っていたら、別人でその声からして中年の女性だった。気を取り直して、「いつも今頃発売されるお茶はありますか」と聞いてみた。すると、残念なことにまだ入荷しておらず、はっきりとした日にちは分からない。たぶん来週あたりには入るとのことだった。それで「では、その頃にまたお電話して伺います」と切ろうとした。

 すると、その女性は親切なことに、「入ったらお電話差し上げましょうか」などと言ってくれる。こちらは思いがけない言葉に感激し、「お手数ですが、よろしくお願いします」と喜んだ。2~3日経って、スマホの着信音が鳴った。誰からだろうと思ったらお茶屋さんからだった。思ったより早くお茶が入荷したらしい。その日の午前中に入ったばかりだと聞かされる。「ご連絡有難うございます」とお礼を言う。だが、「お茶の取り置きもできますけど、いかがですか」と勧められて少し嬉しい気持ちが冷めてしまった。こちらとしては取り置きしてもらわなくても大丈夫なことは分かっている。年末に行ってもまだ沢山残っていることを知っているからだ。念のため、「あのう、20袋ほど欲しいんですけど、それくらい大丈夫ですよね」と念を押してみる。相手は「まあ、量は問題ないと思いますけど」と言うので、こちらも安心して、「直接行った時買うので、取り置きはけっこうです」とはっきり断った。

 さらに「いつ店に見えますか」と聞かれたので、何と答えたらいいのか一瞬迷った。だいたいが、いつ店に行こうとカラスの勝手なのだが、もしも正確な日にちを言おうものなら、行かなかったりしたら電話されてしまうのではないかと要らぬ心配をしたのだ。新鮮なお茶は喉から手が出るくらい、早く飲みたいのはやまやまだがこちらにも都合というものがある。「今週中には行きます」とだけ言って、言葉を濁した。どうしても店に行かなければならないような責任を自ら負ってしまうのが嫌だったから。いつ買いに行こうがお客の自由なのだから、強制されたくないのが本音だ。こうなると、去年の”お祖母ちゃん”のような高齢の女性の「ご来店お待ちしています」の一言がただただ懐かしい。余計なことを何も言わず、こちらの自由を尊重してくれる姿勢が心地よかった。

 週末でいいかと思っていたが、お茶が入荷したと聞いたらなんだか心がソワソワする。ついつい家とは反対方向の電車に乗ってしまった。落ち着くためにバックから本を取り出して立ったまま読み始めた。大型書店でアニ―・エルノーの『シンプルな情熱』と一緒に買った『侍女の物語』に集中していたらあっという間に市場のある駅に着いた。実は一人でこの市場に行くのは初めてだった。不安だったが、拍子抜けするほどスムーズに行けてしまい、難なくお茶屋さんを見つけた。この店はお茶だけでなく海苔も種類が豊富にあって、2階では喫茶店も営んでいた。お茶のコーナーに居たのは中年の男性で、「電話を貰ったので買いに来ました」と告げたら、名前を聞かれので答える。いつものように、お茶を入れてくれようとするので、今は飲みたくなかったので、やんわりと断った。

 20袋ものお茶を買ったのは、義姉のミチコさんに送るのと、自分のための一年分のお茶をストックしておくためだ。つい最近まで飲んでいたお茶も冷蔵庫の野菜室で保管して置いたもので、最後の一滴まで美味しく飲めるのでありがたい。

mikonacolon