毎日ラジオの中国語講座を聞く理由は、面白いからで
ほぼ毎日NHKラジオの中国語講座を聞いているのは、たぶん単に面白いからという理由だと思う。何がそんなに面白いかと言うと、たった15分の放送時間と言えども、その中に中国人の考え方というか、素顔が垣間見えるからだ。北京出身の劉セイラさんと香港出身のリョウ・ユン君が講師の小金井先生と共に毎回のように軽妙で楽しいトークを繰り広げている。中国人に知り合いがいない私にとっては、セイラさんとユン君が中国人の代表のように思えてくる。正直言って、中国語講座を聞く前は私の中国人に対する感情は最悪だった。街中で出会う中国人の行動に思わず顔をしかめてしまうことが多々あった。
例えば、横断歩道を歩行者が渡っているにも関わらず、待つのは時間の無駄だと言わんばかりに、人と人との隙間を自転車で渡ろうとする、いや無理矢理に渡ってしまうのだ。あるいは街角で何やら人が騒いでいるので、何事か?と思ったら、ただ単にグループで話が盛り上がっているだけだった。そのグループもいつだって中国人だった。そんな訳で、いつの間にか私の頭に中に「中国人は日本人だったら絶対やらないことをする人たち」という偏見が出来上がってしまったのだ。最初は台湾旅行のために嫌々中国語講座を聞いていたが、目的があるので真面目にやらざるを得ない。たいして楽しくも無いのだが、目の前に人参がぶら下がっているので、走らざるを得ない馬状態だった。勉強自体は楽しくなくても、その先を見つめて、つまり台湾旅行をイメージしてモチベーションを高めていった。
ラジオの中国語講座を聞き始めた当時は中国人への偏見で頭がいっぱいだった。だが、時間が経つにつれて、番組に出演するパートナーの中国人たちを街中に居る迷惑でしかない人たちとは分けて考えるようになった。それに現在ではコロナのせいかどうかは分からないが、ほとんど彼らを見かけることは無くなった。
テキストの巻末にある『読者来信』というお便りのコーナーで、小学生の男の子から「セイラさんは面白い人ですね」という感想が寄せられた。事実、セイラさんは番組の中で日本人ではまずありえないような発想力を披露してくれた。それはまだセイラさんが日本に来て間もない頃、スーパーに買い物に行ったときのことだ。野菜コーナーに立ち寄ったら、何気なく目に入った文字は「にんにく」で、ひらがなで書いてあった。中国人のセイラさんは漢字でないとイメージが湧いてこないらしいが、目の前にあるのは確かに見覚えがあるニンニクだった。でもその時、セイラさんの頭の中に浮かんだのは「にんにく」だから「人肉」!?という発想で、まさか、そんな訳ないのに、どうしてそんなことになるの?と思わず笑い転げてしまった。
いつもゲラゲラ笑いながら、楽しい会話だけしか本気で聞かないような不真面目な学習者だった。コロナ禍のせいで、というよりも単なる目標を見失った哀れな学習者だ。だが、最近何も頭に残らないのに、ただ聞き流すだけの日々に少し嫌気がさしてきた。それで、厚紙をカッターで切り抜いて、細長い枠を作り、ピンインだけが見えるようにした。それを使ってピンインを漢字で書いてみる練習をやり始めたら、次第に漢字が音と重なり合うようになって楽しくなった。ピンインと言うのは中国語の発音をローマ字で表したもので、西洋人が中国語を学ぶために考えたものだ。実際、中国語の発音は同じような音が多くて、それらを瞬時に聞き分けて会話するのは至難の業だ。
だが、何事もゼロよりましだ。とにかく一でも二でもいいから何とかしたいのが本音だ。流暢に会話とか、ドラマが原語で聞き取れるようにだとか、そんなたいそう夢を抱いているわけでもない。単純にある会話を聞いたとき、その音で漢字が頭の中に浮かび上がってくるとしたら、それはもう楽しくて仕方がないだけだ。
mikonacolon