人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

認知症世界の歩き方

今週のお題「最近おもしろかった本」

認知症の人には世界はどんなふうに見えているのか

 昨日、ふらっと本屋に立ち寄ったら、店先のワゴンの中にこの「認知症世界の歩き方」を見つけた。正直言って、以前に新聞の広告で見かけたことがあったが、ふ~んと言った冷めた態度でその時はスルーして、それっきりだった。今回もたいして気にもならなかったが、本の帯に”16万部突破”と出ていたので、まさかねえと思った。そうなると気になって自分で確かめてみないと気が済まない。巻末の発行年月日を見たら、2021年の9月21日で、その下に2022年9月19日、16刷発行と書かれていた。僅か1年余りで、16刷!?だなんて凄いことだ。突然、認知症について本当のところを知りたいという気持ちがムクムクと沸き上がってきた。恥ずかしい話だが、認知症なんて,他人事で自分には関係ないことだと思っていた。以前はおそらくそんなことは知らなくてもいいことで、デイサービスや介護施設で働く人だけに必要な知識だと勘違いしていたのだ。

 時間があったなら、少しは本の中身をペラペラと捲って内容を確かめてみただろう。でもその時は躊躇せずに本を手に取ってレジに向かっていた。たぶんこの本がためになる、いや、ためになるから読むのではなくて、未知の世界を知りたいワクワク感に襲われてどうしようもなかったからだ。そういう意味で、この本は私の期待を裏切らなかった。いわば、未知の物を求めて、洞窟探検をするみたいな感覚で読むことができた。

 この本がなぜ面白いか、なぜこうまで人を惹きつけるかは、今まで出版された認知症についての本とは一線を画しているからだ。偉い先生が理論で認知症を説明しようとしても、理屈ではわかっても、実際には不可解な事ばかりだ。この本が今までの本と違うのは認知症患者100人にインタビューした結果を踏まえて詳細に書かれている点だ。読んでいて、認知症の人の心の動きが手に取るようにわかった気になる。要するに、普通の人にとって迷惑なだけの認知症患者が起こす行動には、すべて真っ当な理由があるのだ。

 例えば、「同じことを何度も聞く」という行為。これには自らが、同じ立場になって考えると納得がいく。もしもあなたがひとりで外国の見知らぬ街に行ったとする。もちろんあなたは地図も持っているし、目的地に行く道も知っている。でも未知の場所だからか不安で確信が持てないでいる。だから、誰かに聞いて自分が間違っていないことを確かめたい。となると、これは誰かに聞くしかないではないか。一度では不安で、何度も聞いてしまう。そんな状況に置かれた人に、「何度も聞くなよ、しつこいんだよ」と言う人はこの世にはいないはずだ。困っている旅人には親切にするのは当然のことだからだ。

 だが、現実の世界では認知症の人は理不尽な扱いを受ける。家族や周りの人たちから「何度も聞くな!」と怒鳴りつけられてしまうのだ。誰一人として、認知症の人が何を考えているのか、迷惑なだけの行動の裏には何があるのか、について言及しようとはしない。この本には、認知症の人のインタビュー記事が載せられていて、それを読むと驚かされることが多い。彼らは世間で言われるような”ちょっと頭がおかしい人”なんかではなくて、ちゃんと自分の記憶力が落ちていることを知っている。そのため、不安でいっぱいなのにそれでも精一杯生きようとしている”迷える子羊”のような人たちだ。そんな彼らにどうして手を差し伸べずにいられようか。

 特筆すべきは、本編の13章ある中で6章の「サッカク砂漠」の記述である。ある認知症の人によると、「電車とホームのわずかな隙間が深い谷のように見えた」と言うのだ。その理由は「目から入ってきた二次元要素を、脳が三次元情報に変換するところに何らかのトラブルを抱えているため」だった。「目の前にある実際の距離や深さを正しく認識することが困難になっているため、とてつもなく大きな隙間に見えてしまっている」と推測していた。

 いずれにせよ、間違いなくこの本は認知症患者を理解する助けになる本だ。私などは、本を読みながら何度も「なるほど、そうだったのか」と膝を打った。

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