人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

「片足だちょうのエルフ」が教えてくれること

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なぜかダチョウがヒーローに

 だいぶ消えかかってはいますが、表紙には「優良図書」の文字が見えます。無造作に置かれた本たちの隙間から「かたあしだちょうのエルフ」の絵本が顔を出しました。ダチョウが主人公になっている本なんて珍しいので、興味本位に手に取りました。それが古書店でのダチョウのエルフとの出会いでした。ダチョウと言うと、私の中ではダチョウの卵とか、スピードランナーの誉れ高き動物だとかというイメージしかありませんでした。ストーリーも楽しい話を期待していたら、見事に裏切られました。

 子供向けの絵本にしては残酷でリアルな話なので、果たして子供たちはどう受け止めたのか。この本はたしか1967年に出版されたもので、もう50年以上もの時が流れています。それでも、今読んでも古臭くなく、十分に新しい、むしろコロナ禍の今こそ読むべき絵本なのかもしれません。楽しく面白いだけの本でなく、少し毒がある、現実を感じさせるような本だって子供は大丈夫です。彼らは見かけほど軟ではなく、内に秘めた強靭さを持っているのだと児童心理学者が書いていたのを思いだしました。

ダチョウがライオンと戦う?

 物語の舞台はアフリカのサバンナで、そこに1羽のダチョウが仲間とワイワイ仲良く暮らしていたのです。優しくて思いやりがある性格のいいダチョウの名前はエルフでした。ある日いつものようにみんなと楽しく遊んでいたら、突然ライオンが襲ってきたのです。みんな我先に逃げようと必死です、でもエルフは「みんな、早く僕の背中に乗って!」と自分のことより周りにいる動物たちのことを心配するのです。そして、あろうことか、恐ろしいライオンと戦おうとするのです。ライオンが襲い掛かると、あの太くて頑丈な鈍器のような足でキックして、蹴散らします。石をも砕いてしまう鋭い歯でライオンの肉を食いちぎって応戦します。何度やられてもエルフの戦意は衰えません。ライオンが諦めて立ち去ると、みんなが「わ~い、エルフが勝った」と大喜びです。まさにエルフはみんなにとってヒーローなのです。ダチョウなのに「ライオンハート」を持った動物、勇敢で大地のような広い心を持った称賛に値する存在だったのです。

突然、天国から地獄へ

 ところが、ライオンと戦ったエルフは片足を食いちぎられていたのです。その日からエルフはもうみんなとは遊べなくなり、天国だった日々は苦しみに変わりました。片足ではエサも満足に探せなくなり、最初のうちはみんなから食べ物を分けてもらっていました。でも誰もが自分のことで精一杯なので、やがてみんなから忘れられていったのです。エルフの身体は衰弱していき、豊かに茂っていた羽根もいつしか乾いて枯れ木のようになりました。それなのに、なぜか背だけは高くなっていき、まるで一本の木のようにも見えたのです。

 ある日孤独な日々を送っていると、「助けて!クロヒョウがやって来た!」。エルフの耳にそんな叫びが聞こえて来たのです。いつ命が消えてもおかしくないエルフなのに、また戦おうとします。みんなを守りたいという気持ちを変わらずに持ち続けていたのです。最後にエルフの身体は大きな一本の木になって、木の根元には小さな水たまりができました。それはしだいに池になって湖に・・・。たしかその水はエルフが流した一生分の涙を表しているようでした。

 この絵本の作者は画家のおのき・がくさんで、ある1枚の写真にインスピレーションを受けて、その情熱に突き動かされるままに絵本を描いてしまったと言うのです。その写真はアフリカのサバンナにバオバブの木が生えているというもので、その瞬間頭の中を映像が逆映写してしまった。信じられないことに、日常生活に戻るのに6か月もかかってしまうほどの後遺症があるとは。こんなあとがきを読んだら、当時の画家の並々ならぬ情熱が伝わってきて感動必至です。動物描写も力強く、生態が良く表現されていて必見の絵本です。ただ、残念なのは、私が買おうと思ったら一足遅くて、今手元にないことです。

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