人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

パリとの付き合い方

今週のお題「好きな街」

パリを思う存分楽しむ、そのためには戦略が必要で

 私のパリ滞在は最初は一泊6千円のホテル、と言っても、ベッドルームが2つもある広めの部屋から始まった。もちろんバストイレ付きで、なぜそんなに安いかというとおそらくは部屋にテレビがなかったせいだった。たったそれだけで格安の値段でパリに1週間も居られたのだから、いまから思えばまたとない機会に恵まれたと言える。というのもあれから私はずいぶんと欲深くなり、贅沢になってホテル選びにこだわりだしたからだ。つまり、当時から考えれば、夢のようなこと、それはできるだけルーブルやオルセーに近い所に泊まって、できれば歩いて行けたらいいなということをふと思った。

 何事も思うだけなら自由だし、カラスの勝手だが、それを実行に移してしまった。正直言って、決断するには清水の舞台から飛び降りるくらいの勇気が必要だった。そんな場所に1週間も滞在するには頭の中でざっと計算しても驚くほどの金額になる。でもセーヌ河畔を歩き、あのルーブルの建物を目指して、興奮しながら向かう私の足取りは軽かった。あともう少しでセーヌ川という場所にあるホテルを予約サイトで見つけて、迷わずそこに決めた。一か所では面白くないので、そこから近い場所にあるもう一軒のホテルに泊まることにする。そうしたら、私の中で想像もしなかったある変化が起きた。パリの街で今まで見えなかったものが見えて来たのだ。

 考えてみると、それまではただ観光名所の建物とその中身にしか目がいかなかったし、興味がなかった。と言うか、自分の周りが、街の中がどうなっているかなんてことは知ろうともしなかった。ホテルの玄関を出て、地図を頼りに歩くと、すぐ近くにバスの停留所があることを発見する。ここからのバスは終点のモンパルナス駅まで走っているし、待っていればルーブルまで行くこともできる。だが、歩いて15分程度で行ける距離なので、歩いた方が早く着ける。路地を抜けるとセーヌ河畔に出るのだが、その通りにはいくつものブティックが立ち並んでいて、そのショーウインドーを眺めるのが楽しい。美しい陶器やガラス製品、貴金属や子供服を取り扱う小さな店がまるで骨董屋にいるかのように私の好奇心を掻き立てる。どれもが一目で質が良い高級品だとわかる。パリの路地裏は旅人がさっと通り過ぎるにはあまりにも誘惑が多すぎる。これではまるで美術館に行く前に、ちょっとした美術鑑賞をしているのと同じだ。

 ルーブルやオルセーから歩いて帰れると、何が一番素晴らしいかというと、帰りの時間を気にしなくていいことだ。閉館ぎりぎりまでゆっくりできるし、出口にあるスターバックスでダラダラして、通りすがりの人たちをウオッチングして楽しむ。そんなとき私はつくづく自分は自由なんだと感じる。時々日本人の女性グループの話を盗み聞きしたりする。暗くなっても大丈夫、ホテルまでの道は何度も歩いて確認しているから、全く不安はない。これまでは帰りの時間が気になって、ホテルまで無事帰れるかどうか心配だったのが嘘のようだ。

 ホテルからすぐのところにバス停があったおかげで、バスを使って移動することを覚えた。パリのバス路線図を眺めて、観光名所を通る路線だけを選んで乗ってみる。パリを走るバスは日本と違って、信じられないほど狭い路地にまで連れて行ってくれる。だから街の人たちが生活している様子が垣間見えて、実に面白いし新鮮な気分にもなれる。セーヌ河畔の近く、それも美術館の徒歩圏内に泊まる効用は計り知れない。お金はかかるが、それだけの価値があると断言する。ただ、当方は貧乏なので、お金に関しては何かしらの戦略が必要になる。宿泊費は高くても仕方がないので目をつぶることにする。だが、その他の費用については節約を心がけている。馬鹿高いバゲットのサンドイッチなどは一切買わず、宿泊費に見合わない固いパンを平気で出すホテルの朝食もパスする。食べ物に関してはすでに諦めていて、ホテルに炊飯器を持ち込み自炊している。そうまでしても行きたい気持ちにさせてくれる街、それが私にとってのパリなのだ。

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