今週のお題「チョコレート」
どうしてこんなところに高級チョコの店が
知らない町を歩いていると、思いがけなく面白い経験をすることがあります。避暑地のサン・セバスチャンでのチョコレートとの出会いもその一つです。あの日列車で着いたばかりの私は、その町の大通りを散策していたのです。そこはバス通りで、メインストリートでもあり観光案内所もありました。その通りの終わりには町の中心を流れるウルメア川にかかる橋があり、新市街に繋がっていたのです。ちょうど、その橋の手前辺りに、何やらきらびやかな雰囲気の店がありました。通りには様々な店があるのですが、その小さな店は周りとは一線を画しているのです。この店はいったい何の店なのだろうとの好奇心から中を覗いてみました。まず目に飛び込んできたのは、ショーケースの中に無造作に積まれた美味しそうなチョコレート。何やらナッツが入っているらしい、ごろんとした小さな塊に魅せられてしまいました。いろんな種類があるようなのですが、なんと言ってもホワイトチョコに私の目はくぎ付けになりました。
買って帰りたいと思ったのですが、ショーケースから目を離して店の中をよく見てみたら、一転、店に入る気が無くなってしまいました。気軽に入れる店ではないと気が付いたのです。店の中にはテーブルとイスがあってお茶も飲めるようになっているのですが、それらはロココ調で高級感溢れたものなのです。前にもこんな光景を見たことがありました。今は某有名コーヒーチェーンになってしまいましたが、昔は床には絨毯が敷かれ、壁には絵画が飾られていた高級カフェのことを思いだしたのです。その店の雰囲気に似ているのです。そこでお茶を飲んでいるだけで、その時だけは日常を忘れて別世界に浸れる、そんな気分を味わえて最高でした。コーヒー１杯が９００円でしたが、高いとは思いませんでした。
それから、頭に浮かんだのは東京にある小笠原伯爵邸の中で撮影されたグラビアのことでした。廃屋同然だった伯爵邸がリフォームされて結婚式場になり、カフェも併設されているのです。その内部を、一度は見てみたいと思ってアンテナを建てていたら、願いが叶ったのです。ファッション雑誌のグラビアで、伯爵邸のシャンデリアが煌めき、美しい調度品に囲まれた中でモデルさんがポーズをとっています。でも、私が注目するのはあくまで背景で、さすがは伯爵邸だとため息が出たものです。
住んでいるのは富裕層、それに高級ホテルも
さて、どうしようか。チョコレートは食べたいのに、店に入る勇気はありません。目に見えない壁のような何かを感じてしまい、敷居が高いのです。店の中にお客さんはいないし、店に入ろうとする人もいないのです。誰かが入って行けば、その人に釣られて私もとなるのですがその気配はありません。だから勇気を出して入口のドアを押しました。自動ドアではないので、勝手には開いてくれません。買う気満々でショーケースの前に行くとお目当てのチョコレートの値段を見ました。一粒日本円にして２００円ほどで、予想通りの高級チョコでした。その時は、３～４個買ってホテルに飛んで帰って、早速食べてみたらとても幸せな気持ちになりました。それにしても店員さんは不機嫌で、なにやら変な顔をしていました。なぜ、あんなに不愛想だったのかと今更ながら思います。
なぜ避暑地に高級チョコ店があるのかという疑問ですが、たぶん需要があるからなのです。思えば、この町にはマリア・クリスティーナやロンドルといった高級ホテルがあります。毎年開催されるサン・セバスチャン映画祭にはセレブたちも大勢訪れます。それにこの地に住んでいる住民は富裕層が多いそうなので、その人たちのためにあるらしいのです。町の大通りにラ・ブレチャ市場という看板を見つけ、そこで買い物ができるのかと最初は思ったのです。でも中を覗くともガラーンとしていてもぬけの殻状態です。それでもどこかやっている店があるかもしれないと中に入ってみても、何もありません。どうやらこの町にはスーパーマーケットもないらしく、あるのは小さな果物屋だけです。それでも、この町の魅力はバルで美味しいピンチョスが食べられることです。でも最近はそのバル街さえも不況の波に襲われて、シャッター街となっているのは寂しい限りです。２～３年前に行ったときは、店を開けていたのはわずかに１軒足らずでした。
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▲NHKテキストに載っていたバル街の様子。
