人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

「サハラの歳月」を読んでカルチャーショック

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▲台湾・中国でベストセラーになったこの本も日本ではたいして話題になっていないらしい。その証拠に近所の書店では検索しても在庫がなかった。仕方がないので都心の書店にわざわざ行って買い求めた。それにしても、なんとサハラ砂漠での生活は驚きとスリルに満ちていることか!

著者のユーモアセンスに脱帽

 台湾の作家である三毛(サンマウ)がサハラ砂漠に滞在した時の体験を書き綴ったのが「サハラの歳月」です。まだアフリカの西サハラがスペインの植民地だった1970年代の半ばに彼女は夫と共に砂漠にやってきました。正確にいうと彼女の「砂漠に住みたい」という夢をかなえるために夫がわざわざ仕事を見つけてきてくれたのです。お金を稼ぐのは彼の仕事で、彼女は『ただ、米びつについて行けばよかった』と書いています。

 夫とはスペイン留学時代に知り合って結婚したのですが、彼はアジアについてはほとんど何も知らなかったらしいのです。もちろん食べ物についても同様で、おかげでいつも彼をからかって楽しんでいたようです。例えば、はるさめ入りチキンスープを作ったときには、「これは中国のスパゲッティか?」と聞いてきた。それに対しての彼女の返答がずば抜けている。春雨を1本つまみ上げると、これはね「雨」っていうのと真面目な顔でいう。これは春になって最初に降る雨で高い山の上に降るの。そのため降るはしから1本1本凍っていくの。原住民が、それをしばって背中に負ぶって山を下りてきて一束一束と売ってコメの酒に換えて飲むのよ。簡単には手に入らないのよ!とまあ、はっきり言って「ほら吹き大王」ですが、この想像力とユーモアのセンスには脱帽するしかありません。

 また「アリの樹登り」を作ったときには、夫は「これは白い毛糸みたいだけど、プラスティックみたいでもあるけど?」との感想を口にした。水で戻した春雨をミンチにした肉とスープに絡ませたのが「アリの樹登り」という料理らしい。サンマウは顔色ひとつ変えることなく、「どちらでもないわ。あなたが魚を釣るあのナイロンの糸よ。中国人が白く柔らかく加工したの」と答えたが、驚くべきことに夫はたいそう感心したようだ。まさに抱腹絶倒なのですが、サンマウの夫はその後も春雨を食べ続け、春雨大好き人間になったそうです。いまだに春雨が何からできているか知らないようですが、美味しいのでいっこうに構わないようです。

通り道には墓場があって死体に会える!?

 彼女が砂漠に住んでみて経験したカルチャーショックは、夜中に友達の家から帰る途中に不審者と死体に出くわしたことでした。真っ暗闇の砂漠の中を懐中電灯の灯りを頼りに歩いていた時でした。その時はあちこちに墓場があるとはまだ知らなくて、暗闇の中に突然人影を発見した時は身の危険を感じて震えあがりました。でもすぐに冷静になって状況を判断したら相手もひどく怯えているのです。よく話を聞いてみるとその男性は母親の墓参りをしていただけなのです。母親と静かに話をしていたら、見知らぬ誰かがあろうことか邪魔をしてきたのです。サンマウが足元をよく見ると、そこには人間の手があって、男性の母親の手を踏んでいたのだと気付きました。「ひぇ~!暗闇に死体に遭遇するなんて!」と叫びたくなってしまいます。砂漠に死体をちゃんと埋めたつもりでもすぐに出てきてしまうような自然環境なのです。

夫以外は何でも借りに来る人たち

 サハラ砂漠に住むということは、ご近所さんとうまくやって行かなければなりません。「郷に入らば郷に従え」でサンマウも気が抜けない人たちと対等に渡り合って何とかやって行こうとします。この本を読む前に抱いていた「さぞかし近所の人たちと助け合って仲良く」などという希望的観測は読後には吹っ飛びました。新参者はまさに与えるのみで、やたらとみんな物を借りに来るのです。それと、何かと薬をもらいに来る?みたいで、薬局かなにかと勘違いしているようだ。ある時はけがをしたから治療してくれなんて医者でも何でもないのに頼まれた。気の毒なのでやってあげたら、次は虫歯の治療まで要求されて困ってしまったが何とか切り抜けた!まさに日本では、いいえ、普通では考えられない展開です。

 砂漠では心が広くて、何でもできないとご近所さんとは付き合えないらしいのです。サンマウは砂漠に留まりたかったので彼らの頼みを何でも聞いてあげました。それでも、家を借りている大家の子供までが小遣いをせびるのには閉口しました。さすがに子供のふざけた要求はぴしゃりと撥ねつけましたが、サンマウは基本的には社交的な性格で人間が大好きなのです。

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