人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

ストラスブールでホッと一息

今週のお題「好きな街」

長距離列車に揺られて着いたら、そこは別世界

 もう何年も前にフランスを1カ月近くかけて回ったことがあった。最初はシャルルドゴール空港に降り立ち、パリの街を散策した。パリの街の想像した通りの美しさと華やかさに圧倒されて、世の中にこんな素晴らしい世界が本当にあったのだと信じられない思いでいっぱいになった。パリに2~3日滞在すると、次は長距離列車に乗ってドイツとの国境にあるストラスブールへ向かった。パリにもっと居たくて、後ろ髪を引かれるようにパリを後にしたのだが、すでに計画してしまったのだから仕方がない。どうせまた戻ってくるのだからと自分を慰めた。この時の旅の目的はいろいろなフランスを知ることで、列車で行ける都市それぞれの街の様子、人々の生活を垣間見ることだった。一体フランス人は普段どういう生活をしているのか、とても興味があった。

 パリではどうしても、美術館巡りが中心になってしまうのだが、1週間も滞在していると普段見えない風景が見えて来る。例えば、ある日の夕方バリの街角にあるパン屋の店先には長蛇の列ができていた。このとんでもない行列は一体何?とその理由を知りたくてたまらなくなった。少しの間見ていると、店から出て来た人達は皆何本ものバゲットを抱えていた。たしかパン屋で一番安い一本1ユーロもしないと思われるパンのはずだ。そうだった、その日は土曜日で翌日の日曜日はパン屋は休みになるから皆は買いにやって来たのだ。誰一人、1ユーロ以上するクロワッサンやショコラを買う人はいない。それらを買うのは私たちのような観光客だけだと聞いたことがある。そんなパン屋の風景を覗き見して、ここに暮らす人たちは想像以上に質素な生活をしているのだとわかった。

 パリの東駅から6時間ほど列車に揺られてストラスブールに着いた。なぜストラスブールかというと、かの地がドイツとの国境にあって、スイスに行く列車も出ているとガイドブックに書いてあったからだ。それと、国境付近には大きな橋がかけられており、そこを人々は自由に行き来しているという。もしかしたら、ドイツに歩いて行けるかもしれない、だの、スイスにも遊びに行けると勝手に舞い上がった。そんなたわいもない発想が、あとはフランスを南下すればいいだけのことという周遊計画を考えるきっかけになっった。結論を先に言うと、スイスには列車で行って帰ってこれた。だが、橋を渡って歩いてドイツに行くという計画は実現しなかった。当たり前のことだが、ストラスブールの街は広くて大きいのだから、事前に調べておけばいいのだが、そこまでは考えが及ばなかった。

 それよりも、ストラスブールが素晴らしいのは、パリと比べて物価が格段に安く、とても街の雰囲気がいいことだ。街のシンボルである赤銅色に輝く大聖堂の真ん前にあるカフェのテラスでのんびりする。テーブルに座って道行く沢山の人たちを眺めているとしばし現実を忘れてしまう。どこからか日本語が聞こえて来た。ふと見ると目の前で自転車を押した男女が立ち止まって話しをしている。留学生だろうか、こんなところでなら暮らしやすいだろうなあ。近くにある広場ではマルシェが開かれていて、パンやチーズなどの食料品が所狭しと並び、大勢の人で賑わっている。冷やかし程度にちょっと覗いてみると、その安さに驚く。パリの物価高にカルチャーショックを受けたばかりなのでその落差に戸惑う。

 だが、特筆すべきことは他にもある。それはパン屋で、パリのパン屋にはなかったものがストラスブールの店にはあったことだ。当たり前のことだが、パリのパン屋にはディニッシュもないし総菜パンもない。日本のパン屋に比べると、種類が少なく、バラエティーというものがない。これではすぐに飽き飽きしてしまう。まあ、総菜パンなんて邪道ではないかと言われればそれまでだが、買う方は食べたいのが本音だ。でも、幸運にも理想ともいうべき店を偶然見つけてしまった。店内は信じられないくらい、日本のパン屋とそっくりで、感激で涙が出そうになった。ブルーベリーや洋梨のディニッシュ、ホウレンソウとベーコンのキッシュ、それにピザのマルガリータバゲットではない食パンのサンドイッチ等々、それらがまた手ごろな値段で楽しめる。そいう意味で、ストラスブールは私にとっては美味しいパンが食べられる場所として記憶に残っている。

mikonacolon