人生は旅

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終の棲家を探して

今週のお題「住みたい場所」

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 安心して暮らせる場所を捜したら公営住宅という選択

 コロナがまだ流行る前、知人は何十年も住み慣れた家から引っ越しをしました。引っ越し自体はよくあることですが、彼らが引っ越したのが、市の公営住宅というのには驚きを隠せませんでした。それまでの彼ら夫婦の家はマンションの1階で、昔からそこで自転車店を営んでいました。自営業なので、当然のことながら妻も店を手伝っていたのですが、子供の手が離れると郵便局へパートに出るようになりました。時が流れて、妻が定年になると、どんな事情かは知る由もありませんが、夫の方も店を閉めてしまいました。その後彼らの家の近くに行く用事もなかったので、すっかり忘れていたのです。

 ところが、先日友だちと電話で話していたら、何のことからだったのか彼らのことが話題に上りました。ああ、そうそう、友だちが家の近くで偶然妻の方に出くわしたのでした。夜遅くにコンビニに行ったらどこかで見たような人がいたので、まさかと思いました。最初は声をかけるのをためらっていたのですが、間違いないと確信したので呼び止めました。「珍しいね、こんな時間にどうしてここに居るの?」と訝しく思って尋ねました。「この近くの市営住宅に越してきたの」彼女にそう言われた友達は腰を抜かしそうになりました。自宅があるのに公営住宅に住むなんて!訳が分かりません。だから「でも、マンションは自分のものでしょう?」と頭の中を駆け巡っていた疑問をストレートにぶつけました。謎はすぐに解けました。彼らはマンションを売ったお金を老後に役立てようと決めました。そして幸運にも市営住宅の抽選に当たったのでした。

 私はマンションに住んだことがないのでよくわからないのですが、管理費と修繕積立金というのが悩ましいのだそうです。建物の年数が経つにつれて、その費用は比例して上がっていきます。マンションに住んでいる友達の話によると、築20年の彼女の家の費用はもうすぐ4万円近くになります。この先も費用は年々上がっていくのは必至で、「いつまでここに住み続けられるかわからない!」などと返答に困ってしまうことを言うのです。離婚してやっと子供と安心して暮らせる自分の家を手に入れたのに、また心配事ができたのでした。でも彼女には息子がいるのでまだ希望があります。幸か不幸か息子は30を過ぎても一向に結婚もせずに家に居ます。恋人がいる気配もないのでこのまま親子で仲良く暮らしていけそうです。

 知人夫婦も今まではお互い元気で仕事ができたからこそやってこれたのです。ところが、年金生活となると話は違ってきます。どう考えても少ない年金で支払うには毎月の費用がかかりすぎるのです。それで、確実に貰える年金で安心して暮らせる家を捜したら、それが市営住宅だったわけです。理想の家ではなくても、どうにか毎月暮らしていける家、それがどうやら彼らの求めていた家、つまり、住みたい家だったのでした。

 そういえば、マンションをうまく住み替えて快適に暮らしている友達がふとこう漏らしたことがありました。「年金生活になるとお金が足りなくなることは目に見えてる。市営住宅にでも入りたいくらい」。その時は冗談にしか思えませんでしたが、幾分かは本音が含まれていたのですね。今だからこそそう思えてきました。新聞の統計によると、年金だけで暮らしている人は全体の4割ほどで,皆さん賢くて別の収入源をちゃんとお持ちのようです。考えてみると、元気で意欲があれば年を取っても働けます。ただ問題なのは、政府やマスコミが人生100年時代だと声高々に煽ってみても、実際の社会はその考え方に追いついていないのです。

 それに実際に働ける場所があったとしても問題は山積しています。大手のある宅急便の会社は荷物の仕分けにAIを導入して毎日の業務がスムーズになりました。仕事の能率化が進んで一見いい事ばかりのようですが、配達するのはロボットではなく生身の人間です。あの日、私はパソコンをリサイクルに出そうとその会社の人が取りに来るのを待っていました。デスクトップの本体とノートパソコンを入れたかなり重い段ボール箱ひとつを玄関に置いて、持ちやすいようにビニールのロープをかけました。指定した時間は12時でしたが、時間になっても現れません。「あれ~?どうしたのかなあ」と心配になりましたが、少し待っていたらチャイムが鳴りました。急いでドアを開けてみると、そこに立っていたのは疲れ切ったような顔をした高齢者の男性でした。そんな人にこんな重い物をお願いするのが申し訳なくなりました。「すごく重いですけど、大丈夫ですか?気を付けてくださいね」などと言いながら、内心複雑な思いに駆られたのでした。

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