人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

奇跡の87歳の暮らし

 

時間を自由に使えるのが、何よりの贅沢!?

 昨日の朝刊で大きく宣伝されていたのは、『87歳、古い団地で愉しむ 一人の暮らし』という本だった。”注文殺到、12万部”とも書いてある。今YouTubeで話題になっている老婦人らしい。15歳のお孫さんが日々の暮らしを撮って、ネットにあげてくれている。実をいうと、私はすでにこの本を書店で見つけて、立ち読みしてしまった。ちょうどNHKの語学講座のテキストを買いに行った時にこの本が目に入った。それで少しだけのつもりで見始めたら、とうとう最後まで、見てしまった。読むというより、見て楽しむ本だ。日々の食事や部屋の様子、著者のこだわりの洋服、家計簿の付け方まで、惜しむことなく公開している。

 87歳という高齢にもかかわらず、信じられないほど、元気で前向きなところがいい。それはこの人がひとりを満喫して、「自由に使える時間が贅沢にある。長生きのご褒美ですね」といえる暮らしを実践できているからだ。こんな人が世の中にいたことにまずは驚くばかりだ。私が知っている高齢者の人たちは、いつも身体のどこそこが痛い、だの、足が痛いから歩きたくないだのと、どうにもしてあげられないことを言っている。私の叔母はスタスタ歩いて、元気な人だったが、どうやらそれはやせ我慢だったのかもしれない。座布団に正座することができなくて、「行儀が悪いけど足を伸ばすね」と断っていた。もちろん、日頃から整体に通っているのだが、足だけはどうにもならないようだった。お金をかけても思うようにならないもの、それが身体の自由だった。

 この本の著者はYouTube『Earthおばちゃんねる』で話題の多良美智子さんという方で、私が思うには奇跡のような人だ。コロナ禍で高齢者の鬱が問題になっているが、多良さんはストレスとは無縁な人だ。読書、裁縫、映画鑑賞・・・と家で過ごすのが大好きだからだ。熱中すると時間を忘れてしまうので、孤独の影が忍び寄る心配はない。朝5時には起きてラジオ体操をして、野菜のスムージーを飲む。健康には気を使っているが、日々の食事はシンプルで家計にも優しい。ウオーキングも大切な日課で身体を動かすのも忘れない。こう書くと何でもないことのように思えるかもしれないが、想像するだけでも、87歳では歩くことさえ億劫になる、いやそもそも歩くことさえ困難なのではないか。

 私のもうひとりの叔母は80歳だが、自身の姉がガンで亡くなっても葬式に来なかった。来たくなかったわけではない、来られなかったのだ。身体のあちこちが痛くて、日によって痛い場所が毎日変わると言っていた。それに足を引きずるような形でしか歩けなくなったので、自分が歩く姿は自分でも無様だと思うのだ。だから、その不格好な姿を私たち親戚に見られたくない。それに、自分の身体の痛みのせいで、目の前のことで精一杯で、遠い親戚のことなどもうどうでもいいのだ。年を取ることは、若い頃には考えられなかったような身体の変化に戸惑い、嘆き、それでも受け入れて生きていくことだと叔母を見ていて思う。

 人生100年時代と言っても、昔に比べて今の高齢者は若いとマスコミにおだてられても、現実には叔母のような人がいる。だからこそ、多良さんは高齢者の”希望の星”で、YouTubeのチャンネル登録数6万人というのもうなずける。「こんなふうに年を取りたい」との声が続々と届く。「前向きな姿勢に元気を貰いました」とか「家を売って、施設に入ろうと思いましたが、ここで頑張ろうと勇気づけられました」と感謝する人もいて、高齢者の生き方指南の書のようになっている。

 多良さんは今までずうっと団地暮らしだが、家を買いたいと思ったことはないそうだ。その理由はローンに追いかけられて、お金のことで苦労するのが嫌だったからだ。だから、今暮らしている古い団地が大好きでとても満足している。多良さんは筋金入りの倹約家だが、最近は少し考え方に変化があったようだ。それは今までは節約を旨としていたが、もうここらでパアッと好きなことにお金を使ってもいいのではと思うようになったのだ。

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