人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

トルティージャ

NHKまいにちスペイン語テキスト10月号の口絵より。

 トルティージャとはじゃがいも入りスペイン風オムレツのこと。HNKのスペイン語のテキストの巻頭においしそうなトルティージャの写真が載っていた。思わず懐かしさがこみあげてきて、以前訪れたバスク地方を思い出した。記事を読んで見ると、トルティージャは単なるじゃがいも入りオムレツではないと知って、目から鱗が落ちた。「油煮にしなければトルティージャではない」らしい。正しい作り方も載っていて、弱火でゆっくりと煮る?のがポイントで、じゃがいもの美味しさからして変わってしまう。「カリッと揚げるのではなくて、あくまでもしっとりと柔らかくなるように」心がけるのが美味しく作る秘訣だ。

 次に、「油をさっと切ったじゃがいもを軽くつぶし、アツアツの中に卵をまぜ、とろりとさせる。卵は室温に戻すか、早めに解いておくのもコツ」だそうで、なかなかこだわりが多い。最後の仕上げは、「お皿か平らな蓋を使い、精神を集中させ、フライパンごとひっくり返す」のだが、これは何度も試してみて腕を上げるしかなさそうだ。

 トルティージャはこの記事の写真では、中身がトロっとなっているが、私が過去に食べたことがあるものとは違う。私がスペインのバルセロナや、マドリードサンセバスティアンで食べたトルティージャは固めの卵焼きだった。もっとも私が食べたのはタパスで、フランスパンの上に乗っかっている卵焼きだったが、正直言ってあまり美味しいものではなかった。中がパサパサしているせいか、じゃがいもが邪魔だった記憶がある。なので、また食べたくなるようなものでもなくて、どうせ食べるなら、しっとりしたスペインオムレツの方が美味だった。

 それでも一度だけ絶品のトルティージャを食べたことがあった。それはビルバオのトラムの駅前にあった小さなカフェで、カウンターのケースの中に入れられていた四角くて黄色い物体だった。その小さな四角いものを見たことがなくて、何かわからなかったが、とりあえず注文した。コーヒーを飲みながら、その黄色い物体を一口食べてみた。すると、美味しい、しっとりしてすごく美味しい。その見た目とは裏腹に中が柔らかくて、今思うと卵とじゃがいもが溶け合ってある種のハーモニーを奏でていた。驚くべきことに、その時の私はそれが卵とじゃがいもであることにさえ気づかなかった。それくらい、卵特有の味を感じさせず、じゃがいもらしさを味合うこともなく、「なんだかすごく美味しいけれど、いったいこれは何!?」と仰天した。

 その時はこれはケーキか何かだと本気で疑わなかった。あれがもしかしたら、トルティージャ!?だと気が付いたのは何年も経ってからだった。当時はサンセバスティアンから列車で2時間半もかけてビルバオにたどり着いた。本当はバスで行けば1時間ほどで行けるのだが、駅のバス乗り場が地下にあるのを知らなくて、仕方なく電車に乗った。ガイドブックに載っていたビルバオグッゲンハイム美術館に行くためだった。現在では駅前にちゃんとバス乗り場のサインがあるが、当時は何もなくてわからなかった。駅で切符を買う時、信じられないと言うように駅員に目を丸くされた。「本当にいいの?各駅停車だから2時間半もかかるのよ」と念を押されたが気にも留めなかった。駅の売店で生クリームで爆発しそうなコッペパンと、コーヒー、バナナを買って列車に乗り込んだ。あの時の店員さんは金髪でとても美しい人だったことを今でも覚えている。

 ビルバオまでの2時間半は車窓を眺めていたら、あっという間で実に楽しい時間だった。どこまでも続く森を眺め、たまに川のせせらぎが聞こえる。まるで映画でも見ているかのように映像が流れていく。車内はガラガラでまさに貸し切り列車、思いがけなく私だけの至福の時を味わった。

 

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