人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

野菜の自動販売機

 

採れたて野菜を100円玉を入れて買う!?

 私が面白いなあと思うテレビ番組のひとつにNHKの”72時間ドキュメント”がある。毎回取材する場所は違っていて、その日は練馬にある野菜の自動販売機コーナーにやって来る人々をカメラは追っていた。最初、静かな住宅街に突如として、野菜の自動販売機コーナーが出現したかと思って、なんだこりゃと仰天した。次々とやって来るお客さんたちは手慣れたもので、100円玉を入れて中に入っているキャベツやら、ホウレンソウやらを取り出して、持参した袋に入れて持ち帰る。中が見える透明なコインロッカーの中に毎日違う種類の野菜が入れてあって、誰でも自由に好きな野菜が買えるシステムになっているらしい。

 見たこともない野菜の自動販売機に戸惑っていると、「練馬ではこれが普通だとおもってたけど、違うのね」と常連さんに言われてしまった。その人の話では、このあたりではここの販売所だけでなく、他にも沢山の野菜の自動販売機があるそうだ。カメラが自動販売機コーナーから離れて、付近一帯を撮り始めると、まわりには驚くほどの広い畑が広がっていた。その畑のすぐ真ん前に家があるような環境なので、わざわざスーパーで野菜を買わなくても済むのだ。どうせ買うなら、新鮮な方がいいとなるのが人の常なのだから。だから、ここに住んでいる人たちにとって、野菜の自動販売機は普通で、当たり前のものなのだ。

 小さな子供を連れて買いに来た女性は、「ちょうどうちの前の畑で作っている野菜なんですよ、ここにあるのは」なんて嬉しそうに話していた。きっとどんな人が育てているのか知っているのだろう。生産者が見えるのは消費者にとって一番安心なことだ。母親と一緒に来た女の子は、自分で100円玉を入れて、キャベツを取り出す。「このキャベツはキュキュッとしていて美味しそう!早く食べたい」と愛おしそうに抱えていた。子供がお菓子やチョコレートではなく、野菜に夢中だなんて素晴らしいと思わずにはいられない。

 その一方で、なぜ農家は野菜の自動販売機コーナーを始めようとしたのか、その理由がとても気になった。それは野菜を市場に出すには様々な規格というものがあって、そこから外れたものが多く出てしまう。それらの野菜を安く提供できる場所を作ることが第一で、それから住宅街の中で朝早くから作業をしていて迷惑かもしれないが、その辺の事情を理解してもらうのに役立つのではないかと考えてのことだった。実際には住んでいる家の周りに農家があるということは 便利なだけではないようだ。

 自動販売機コーナーを運営している農家は毎朝早い時間に来て、採れたての野菜をロッカーに詰めていく。そして夕方になると売れなかった分の野菜を回収しにやって来る。そのままにしておくと野菜がしなびてしまうからで、家に持ち帰って冷蔵庫に入れて保管するためだった。番組を見ていて気が付いたのだが、お客さんがひっきりなしにやってくる割には、売れ残った野菜があまりにも多すぎる。まあ、考えてみると、似たような場所はどこにでもあるということなので完売とはならないのだろう。

 野菜で思い出したのだが、子どもの頃、近所の幼馴染の家は専業農家だった。その子の家の門を入ると、庭でおじさんが井戸水で野菜を洗っていた。市場に出すための大切な商品だ。確かその時はホウレンソウだったと思うのだが、茎や葉っぱに纏わりついた畑の泥を丁寧に落としていた。水でキレイに洗った後、どうやって乾かすのかなんてことは考えもしなかった。大人になって、都会のスーパーでホウレンソウの特売を買った時、たまに気になるほど土が付いていることがある。そんなとき、ふと幼馴染の父親であるおじさんの顔が浮かんでくる。

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