人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

作りたい女と食べたい女

ふたりの求めていたものが同時に満たされた関係

 先週からNHKのドラマ『作りたい女と食べたい女』を見ている。野本さんは料理を作ることが大好きなのに、小食でそんなにたくさんは食べられなかった。でも本当は好きなものを好きなだけ大量に作りたかった。いや、気が付くと到底自分では処理しきれないほどの量の料理を作ってしまっていた。「いけない!また、やっちゃった」といつも後悔していた。誰か、自分が作った大量の料理を食べてくれる人がいないものだろうかと、どこかにいるであろう理想の人を捜していた。

 そんなある日、偶然に出会ったのが春日さんだった。春日さんはマンションの同じ階に住む女性だった。エレベーターで一緒になり、春日さんがフライドチキンと思しきパックを2個も下げているのを見て、「あのう、これからパーティーか何かやるのですか」と声をかけてしまったのがきっかけだった。春日さんが「いいえ、ひとりで食べるんです」と答えるのを聞いて、仰天したが同時に心は踊った。この人ならもしかしたら、自分が大量に作った料理を気持ちよく平らげてくれるかもしれない。ようやく”理想の人”に巡り合えたような喜びに震えた。

 ここで少し疑問に思ったのだが、野本さんにはどうして彼氏がいないのだろうか。野本さんを演じている比嘉愛未さんはどこから見ても美人だし、おそらく年齢は30代前半の女性だ。彼氏のひとりや二人いてもちっとも不思議ではない。料理好きだから、もちろん会社にお弁当を持って行く。すると周りの人たちに「料理上手でいいですね」とか「いいお嫁さんになりますよ」などと勝手なことを言われてしまう。そんなステレオタイプな誰でも言いそうな発言に必要以上に敏感に反応して、「ああいうの凄く嫌でしかたがない」と思ってしまうのはなぜなのか。実を言うと、私はそんな野本さんに少し違和感を抱いていた。もしかして、男性に興味がないのではないか、いや、彼氏がいないからと言って、そうとはかぎらないのだが。

 でも、ドラマの第5回を見て、やはり野本さんは男性にはときめかず、女性の方が好きなのだとわかった。野本さんは自分の部屋で、自分が作った料理を春日さんに食べてもらい、春日さんが豪快に平らげる姿を眺めてうっとりする。気持ちいいほどに料理を食べつくす春日さんの姿を見ているのが好きで、二人で過ごす時間は至福の時間だと感じていた。念願だった好きな料理を大量に作れる幸福、それを美味しそうに平らげてくれる人がいる幸福、それらを自分にもたらしたのはすべて春日さんのおかげなのだ。

 ある日会社の昼休みに同僚と雑談していて、春日さんのことを少し話した。すると、同僚に「なんか、恋している感じですね」と言われて胸がドキドキしてしまった。その時気が付いた、自分の本当の気持ちに。「春日さんが好きだ」そう思ったら、高校時代を思い出した。あの頃一緒に帰ろうと思ったら、友だち二人共に彼氏と一緒に帰るからと断られた。自分はずうっと仲良くしていたかったのに。思えば、自分はあの頃からそうだったのだと。自分は女なのに女が好きだなんて変なの?とネットを検索したりして調べ始めた。こちらがそんなに真剣に悩まなくてもいいのにと心配していたら、野本さんは開き直ったのでほっとした。自分の気持ちに正直でいよう、それでいいのだと。

 ドラマ全体に流れる空気は至って穏やかでほのぼのとしたものだ。料理はめんどくさいし、作るのは大変でも食べるのはあっという間だ。毎日の暮らしの中では根強い義務感と惰性の法則で何とかやっている身としては、料理を愛する野本さんはまるで女神のように思える。遥か昔のことだが、私にも野本さんのように楽しく料理していた時代があったのだ。料理は本来楽しいもののはずなのに、現実は決して楽しくはない。そう言えば、春日さんは基本的に好き嫌いなしで何でもおいしそうに食べてくれる。それにいつも「美味しかったです。ごちそうさまでした」と言ってくれて、批判めいたことは一切言わないのだ。

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