人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

井戸水で冷え切ったそうめん

今週のお題「そうめん」

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 そうめんにはいろいろな思い出が詰まっていて

  田舎で育った子供の頃、夏の食べ物の定番はそうめんとスイカでした。そうめんと言っても、今食べているような麺ではなくて、もっと太い形状のもの、つまり冷や麦です。考えてみると、子供の頃、私の周りでは皆そうめんではなく冷や麦を食べていたような気がします。でもここでは、そうめんということにして話を進めることにします。母が鍋いっぱいのお湯で茹でたそうめんは、水道の蛇口から出る井戸水に晒らして冷やします。井戸水は冷凍庫にある氷のように、思わず手を引っ込めてしまうほどの冷たさでした。主食なのに、まるで美味しいデザートのように、身体中の熱を瞬時に取り去ってくれる魔法の食べ物、子供の頃はそんな風に思っていました。それから、麺に色が付いているものが数本あって、それを食べたくて仕方がなかったのです。袋に入っている白い乾麺の中にピンク、ブルー、グリーンの色を見つけると、絶対今日はこれを食べるぞとワクワクしていました。食べて見ると白い麵よりも、数倍も美味しいような気がしたものでした。実際は色だけ目立っていて、味は何もついていなかったのですが、子供の私はそれなりに楽しかったのです。

 そうめんにはその家の個性が出るものです。近所に一つ年下の女の子がいて、その子の家は農業で生計を立てていました。いつも遊びに行くと、その子の両親は畑から取ってきた野菜を洗ったり、何かしら作業をして忙しく働いていました。夏休みだったと思うのですが、遊んでいたらいつの間にかお昼になっていました。帰ろうとすると、おばさんが「ご飯食べて行ったら」と言ってくれました。おばさんはいつもは不機嫌な人なので、きっと人当たりがよくて優しいおじさんが気を使ってくれたのです。この家の夫婦はまるでテレビドラマに出て来る人達みたい?だと子供心に思っていました。おばさんは見るからに意地悪そうで、私には皮肉しか言いませんでした。でも。そんなときにすぐに笑顔で慰めてくれるのはおじさんでした。「気にしなくていいからね」とニコニコして言われるとすぐに気持ちを切り替えることができました。

 今思うと、この夫婦はちゃんと調和がとれてうまく行っていたようです。そして、幼馴染の女の子の性格がまた、おばさんにそっくりでまさに親子だったのには笑ってしまいます。その子と私は別に仲がいいわけではなくて、近所に同年代の子がいないという、それだけの理由で仕方なく遊んでいました。それでも、ひどい喧嘩をすることもなくうまく付き合っていました。学校から帰って来ると、その子の家に飛んで行って、ゴム飛びや石けりをしました。雨の日はビニールハウスでお人形ごっこや着せ替えで遊びました。遊んでも遊んでも、心の距離は少しも縮まることはありませんでしたが、二人共そんなことは望んでいませんでした。このままでいいと思っていたのだと思います。

 農家のお昼ごはんは普通の家より何倍も豊かでおいしい、それが私の子供の頃の感想です。その日のお昼はちょうど、汗ばむ季節には口当たりのいいそうめんでした。井戸水で冷え切ったそうめんのほかにテーブルの上は野菜のおかずでいっぱいでした。ホウレンソウの胡麻和えや、ナスの炒めものやピーマンとハムの炒め物などで見ただけでお腹がいっぱいになりました。どの皿にも山盛に盛られたおかずをつまみながら、冷たいそうめんを口の中に流し込んだら、身体の熱がたちまち吹き飛んでいきました。幼馴染の兄弟3人と私を含めた総勢7人が食卓を囲んで、たわいもない話をしながら楽しいひとときを過ごしました。それにしても、採れたての野菜はなんて美味しいのだろうとあの家に行くと思ってしまうのはなぜなのか。あの家の雰囲気がそう感じさせて、野菜の味に影響を与えてしまうのか、不思議というよりほかありません。「あの家の野菜はとにかく美味しかった」と今でもそう思える懐かしい思い出の一つなのです。

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