人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

幸せで叫びたくなる時

今週のお題「叫びたい!」

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▲ロープウェーで行ける標高2877mのビック・ドュ・ミディ展望台。ピレネー山脈のパノラマを一望できる絶景スポットでもある。NHKまいにちフランス語テキストから。

蜂が嫉妬するほど幸せだから、叫びたい

 果たして、私に「叫びたくなるほどの幸福感に包まれたときがあっただろうか」と考えてみたのです。そんなことは久しくなかったなあと思ったら、あったのです、それは自分が世界中で一番幸せ者だと実感できた瞬間でした。もうすっかり忘れていたのですが、昨日雷に打たれたように思いだしたのです。あれは、もう何年も前の出来事でした。当時私は仕事上の悩みを抱えていて、あのまま我慢していたら、耐えるしかないという考えに捉われていたら、完全にどうにかなっていたでしょう。幸か不幸か、私はいい加減な性格なので、逃げるが勝ちと開き直り、ベルリンへ逃げたのでした。

 負の感情を断ち切るのに”離陸”、つまり飛行機を利用することは最適な方法だと言えます。なぜなら空中に浮かび上がることで、それまで抱えていた重い荷物を地上に置き去りにできるような感覚に陥らせてくれるからです。移動手段がもし列車だとしたら、”線路は続くよどこまでも”で逃げたつもりでも、どこまでも追いかけてくるように錯覚してしまうからです。つまり、放り出したい日常を断ち切ることが難しいのです。その点において、飛行機はこれまでの地上でのしがらみから解放してくれて、別世界に連れて行ってくれる有難い乗り物だと言えます。

 機上の人となって、自分だけの時間を過ごせることはもうそれだけで、十分幸せなのですが、肝心なのは目的地です。ベルリンを旅行先に選んだのは、その自由な雰囲気と物価が安く過ごしやすいのが理由でした。実際この街は仕事がないことで知られているのですが、その分誰でもお店の経営者になれるという希望に満ちた場所でもありました。旅行者からすれば、この街は他にはないユニークなタイプの店や物で溢れていて、私の好奇心は全開になりました。当時、ベルリンではビオ(有機栽培)の商品が人気があって、ビオ専門のスーパーは割高でもこだわりのある人で溢れていました。

 一番驚いたのは、スーパーの前に芝生があるちょっとした空き地があって、そこに籐で出来たベンチがいくつもあったことでした。ベンチと言っても、それは上から吊られている籐の籠で、まるで鳥の巣籠みたいなものでした。その籠に座ると身体がすっぽり入ってしまい、ほとんど外からは顔が見えなくなります。ふと見ると、籠はすべて使用中で、いったい皆何をしているのかと思ったら、どの人も読書の真最中でした。どうやら籐の籠の居心地は最高のようで、誰も途中で切り上げて帰ろうとする人はいないようでした。私もぜひ試して見たくて、しばらくの間席が空くのを待っていたのですが、空きそうにもありません。でも諦めて帰ろうとしたら、奇跡的に一つだけ席が空いたので快適空間を堪能することができたのでした。

 私が現地を訪れたのは10月でしたが、秋なのに気温が高く、何より蜂がやたら飛んでいました。川沿いにあるカフェでコーラを頼んだら、甘い匂いに誘われて蜂が飛んできました。ガイドブックのアドバイスに従って、虫よけの腕輪をはめていたのですが、蜂には効き目がありません。何より殺虫剤の匂いがやたら強すぎて、たまらず腕から外す羽目になり、トホホなことになりました。蜂は人を刺すことはなく、不思議なことに自分から飲み物の中に飛び込んで行き、最後には死体となってしまうのです。周りの席の人たちを見渡してみたら、ほとんどのグラスには蜂の死体が浮いていたのです。それでも、川面から吹いてくる風を感じながら、リラックスできたことは貴重な経験でした。

 ベルリンには、外国には珍しいビュッフェ形式のレストランがたくさんありました。ある日、そういうタイプの店に向かおうとしていた私は、街の雑踏に佇んでいました。すると、どこからともなく一匹の蜂が飛んできて、私の胸元に止まったんです。普通なら、怖くて冷や汗が出そうなのですが、その時は違いました。なぜなのかわからないのですが、そのときは自分がベルリンに居ること自体が幸せで仕方ありませんでした。それこそ、「世界中で一番幸せ」だと叫びたくなるくらいで、天にも昇るくらい満ち足りていたのです。だからふと思ったのです、まさに、蜂が嫉妬するほど幸せなのだと。

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