
今まで知らなかった風景を覗き見
現在週3回ほど近所の整形外科に通っている。待合室で診察を待っていると、いろんな人に遭遇する。先日は私の目の前に座っている人は、若い男性で初診らしく、受付の人から渡された問診票に記入していた。そこへ看護師さんが現れて、どうしてこの整形外科へ来ることになったのかを聞きに来た。二人の会話から察すると、その男性はこの整形外科が3つ目の病院で、腰が痛いのをどうにかしたくて来たという。そもそも腰が痛くなったのは、昨年の10月頃仕事が変わって、座ってする仕事になってからだ。看護師さんが、それって、部署が変わったの?それとも転職したかと尋ねると、転職だと答える。
最初はハルヤマ病院に行き、レントゲンを撮り、痛み止めを貰って帰って来た。ハルヤマ病院は私は行ったことはないが、名前だけは知っている大病院だ。だが一向に腰の痛みは良くならない。次は整骨院に2,3週間通ってみたが、やはり良くならない。それでこの整形外科を受診したというわけだった。人のことだから変に興味を持つのはいい加減にやめた方がいいが、私の周りで腰の痛みが治ったという人を聞いたことがない。この前、スーパーで買い物をしていたら、いかにも生活に余裕がありそうな高齢者の夫婦に出会った。妻の方が夫に「ねえ、ワインでも買っとく?」と尋ねていたが、当の夫はあまり関心がないらしく、「俺は腰が痛いからちょっと向こうで休んでくる」と答えただけだった。よく見ると、夫は杖を突いていて、いかにも歩くのが大変そうだった。なので、妻と一緒に店内を見て回るよりは、店の隅に置いてある椅子に座っていた方が楽なのだ。
聞くところによると、腰痛で悩む人は世の中に五万といるらしい。ということは、つまり腰痛を直す有効な方法は見当たらないと解釈したほうがいいのだろうか。以前、朝日新聞の天声人語にも「我が事で申し訳ないが、この冬の寒さで、立っていても座っていても腰が痛い」と歎いている記述を目にしたこともある。だとすれば、腰痛は油断のならない恐ろしい病だ。腰痛というのはそんなに完治が難しい病気なのかと天を仰ぎたくもなる。
だが、以前知り合いの桐原さんから、腰痛が完治した人の話を聞いたことがあった。それは桐原さんの娘さんが保育園に通っていた時の先生の話で、その人は優しい雰囲気のいかにも保育士になるために生まれてきたような人だった。保育士というのは世間一般にはあまり知られてはいないが、腰痛が職業病だと言われている。言われてみると、しょっちゅう子供を抱っこしたりするのが仕事なのだから、体力勝負であることはもちろん、腰を酷使する仕事だと容易にわかる。桐原さんの娘さんの担任になった横田先生はしばらくすると、姿が見えなくなった。園の噂によると、「腰を悪くして、休職になった」とのこと。先生が大好きだった娘さんはとても悲しんだ。桐原さんも頭の隅には常に先生のことがあった。
だが、1年ほど経った頃、なんと横田先生が再び園に戻って来られたのだ。驚きのあまり、「先生、腰は大丈夫なのですか」と尋ねると、「おかげ様で、完治したのよ」と即答された。早速先生に「どうやって治したのですか?」と秘密を聞いてみた。先生によると、腰痛というのは整形外科でも整骨院でも治りはしないとのこと。ではいったいどうやってと、ますますそこのところが知りたくなる。「私の生きがいは仕事で、子供と関わる事。腰痛で仕事ができなくなった時、一度は絶望した。でも藁にもすがるように必死で治療法を探したら、見つかったの」
先生の選択した治療法は道場に行くことで、なんでも、四国にある道場だそうで、そこで腰痛を治したとのこと。「私には子供と関わらない人生なんて考えられないからね」と言う先生の顔は輝いていた。
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