
水深1.2mの深さに慣れてきた
1.2mの深さのプールに通って、2か月が過ぎた。最初は水の壁に阻まれ、前に進むのがやっとだった。ものの10分で足が前に出なくなり、ほとほと往生した。陸と同じ様に足を前に出そうとすると、水の抵抗にあって足が思うように動かなかった。そりゃ、そうでしょう、足だけで前に進もうとしていたのだから、無理もない。私のような超初心者は自分が持っているものすべてを使って、前に進むしかないのに、そんな簡単なことにさえ考えが及ばなかった。プール友だちのセツコさんに足を高く上げ、肘を使って体をねじって水をかいて進む方法を教えてもらったが、足が上がらない私には真似することはできなかった。それで、少しの間は水の中をジャンプして進んでいたが、偶然ネットで両手を使って水をかく方法を見つけた。そのおかげで、私の水中歩行は格段に楽になった。いまでも、隣で泳いで知る人が作る波が押し寄せて、身体がもっていかれそうになり、怯むこともあるがそれにも慣れてきた。
水深1.2mの深いプールで、苦行でしかなかった水中歩行が、今では気持ちいいものに変わりつつあった。いつものプールが休館になって、しかたなく今のプールに通うことになったが、その頃の私にとって、プールの水はどうあがいても崩れることがない壁でしかなかった。それがどうだろう、今はその壁が嘘のように溶け出して、私の身体は自由に動けるようになった。
それで、皆がやっている横歩きをやって見ようと思ったら、身体が自然と横向きになり、手を広げていた。それを見たセツコさんが「何、やっているの?」と私の側に来てくれた。それで、嬉しいことに横歩きのやり方を教えてもらった。横向きになって大きく手を広げ、次は胸のところで手を交差する。その時の手はグウの形で、その方が手を広げる時に抵抗が小さくて、軽いから楽なのだそうだ。手を大きく開いている時は足も目いっぱい開いている。手の形がグウの時は横に移動する時だとわかった。プールでずうっと皆が横歩きをするのを見ていて羨ましかったが、実際に自分でやってみると、意外に簡単でびっくりしたというのが本当のところだ。だが、プールに来たばかりの私にさすがに横歩きは無理と言うもので、水に慣れた今だからこそ、こんなことが言えるのだ。
そうなると、調子に乗った私は、「では、後ろ歩きはどうだろうか」とふと思い、すぐにやってみた。なぜすぐに実行できたかと言うと、正午のプールはやたらに空いていたからで、人を気にする必要がなかったからだ。いつも、後ろ歩きなんて、自分には無理無理と諦めていたが、これも意外にスイスイと身体が後ろに進むではないか、あれ!?こんなに簡単でいいのだろうかと困惑した。考えても見て欲しい、前に進むのにも一苦労していた私が、横歩きも後ろ歩きもできるなんて、とても想像することができなかった。なんだか、あり得ないことが起きたかのように、頭がくらくらしてきた。となると、次にめざすのは魚のようにスイスイと泳ぐ自分になることだが、どう考えてみてもそれは今のところは無理そうだ。それでも、俄然やる気になっている私は、プールに上がる前に、スロープのところにあるホールにつかまり、顔を付けて、バタ足の真似をしてバシャバシャやってみた。何とか足は動かせたが、何十年ぶりかに水の中に顔を付けたら、まともに目が開けられず、息も苦しい。何も考えていなかった。水泳は息を止めなければ泳げないことに今更ながら気が付いた。果たして、私にできるのか、頭の中をどうしようもない不安だけが駆け巡った。
別に泳げなくってもいいじゃない、それくらいに以前の私は考えていた。だが、足のケガでプールに通うようになって、だんだんとよせばいいのに、泳げるようになりたいとそう思ってしまったから始末が悪い。これからどうなるのだろうか、今の私にも予測がつかない。
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