人生は旅

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タバコの煙でトラブル

タバコの煙の悩みは喫煙者にはわかってもらえない?

 市営住宅に住む知人の桐原さんは、先日、自治会費を納めに集会室に行った。4月から理事になったので、集めた自治会費を毎月持って行くのが役目なのだが、その際、偶然にある話を耳にした。桐原さんが、自分の順番を椅子に腰かけて待っていたら、少し離れた傍らで3人の住人が何かの話をしていた。しかもその話は延々と続き、終わりそうにもない。少し耳を傾けてみると、「タバコの煙が」とか「いつも、ベランダに出ると隣の住人のタバコの煙が充満していて」とかと、3人のうちの一人の女性がこのままではどうにかなってしまうと、困り果てている様子。

 さらに、市営住宅の管理会社に相談したが、状況は改善せず、挙句の果てに警察に行ってくださいと言われてしまったという。この話を聞いて、桐原さんは一瞬ヒヤッとした。実を言うと、桐原さんの夫はヘビースモーカーで、家にいる時はタバコを吸っているが、自分が吐き出したタバコの煙がどこに行くのかについては無頓着だった。桐原さんが住んでいる市営住宅は築15年のバリアフリー住宅で、部屋には24時間換気システムが付いている。この機能が働いておかげで、部屋は常に空気が循環していて、とても清潔だと言える。だが、それは部屋に居る側の人間にとってのことで、汚れた空気を排出された外の人間にとっては迷惑以外の何ものでもない。ここで言う汚れた空気とは、例えば、たばこの煙で、桐原さんの夫は自分が吸ったタバコの煙が自然と外に排出されるのを知って、とても喜んでいた。というのも、以前住んでいた古い賃貸アパートでは、空気清浄機などなかったので、長年住んだ後では壁や押入れの襖がタバコのヤニで黄色く変色していたからだ。

 だが、桐原さんの夫のタバコの煙は間違いなく、外で悪さをして、誰かを悩ましていることは確実だ。桐原さんの夫が無関心でいられるのは、苦情が直接聞こえてこないだけのことなのである。妻の桐原さんにしても、日常の慌ただしさに追われて、ついつい夫のタバコの煙がどんなに有害かについて忘れているだけのことだ。彼らにはまだ迷惑という隣人の声が届いていないだけなのだ。そう言えば、桐原さんの部屋の周りは空き部屋が多くて、右隣とすぐ上の部屋は空いている。そんな住宅事情も関係しているのかもしれないが、彼らは今のところ平穏でいられる。

 そんなことを想うのは、桐原さんが初めてこの団地に下見に来た時に一つ下の階の住人からタバコの害がどんなに迷惑かについて聞かされたからだ。桐原さんが水道の元栓を開けるのに手間取って、同じ階の住人に助けを求めたが皆留守だった。仕方がないので、下の階のインターホンを鳴らしたところ、出てくれたのが710の春日さんだった。春日さんの部屋は端っこの西側にあって、もう15年もその部屋に住んでいた。ただ、意外だったのは春日さんにはある悩みがあることだった。それは隣とその隣の部屋の住人が二人共タバコを吸う人で、彼らの吸ったタバコの煙がすべて、春日さんのベランダに集まって来てしまうというのだ。つまり、ベランダに干してある洗濯物はいつもタバコ臭くて、そのまま着るわけにもいかない。もちろん、何度も何度も、直接苦情を言ったが、全然改善される兆しがなかった。

 埒が明かないので、春日さんは洗濯の時に柔軟剤を使うことにした。そうすると、タバコの匂いが多少気にならなくなると言う。天気がいい日に外に洗濯物を干せないという憂き目にあうよりはまだましかもしれないが、慣れるまでには相当な時間を要したはずだ。桐原さんはベランダで洗濯物を干す際、ときどき柔軟剤のきつい匂いが漂ってくるのを感じることがある。その瞬間、春日さんのことを思い出す。そして、自分の夫が直接的ではないとしても、これから加害者予備軍になりうる、いや知らないだけで、もうすでに加害者になっているかもしれないと感じて、怯えてしまうのである。

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