人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

美しい古都、サンクトペテルブルグ

今週のお題「好きな街」

美しい外観、中に入ると絶筆に尽くしがたい光景が

 トルストイの『戦争と平和』に出て来るレニングラードは今ではサンクトペテルブルグという名前で呼ばれている。この小説を読んでいた頃はまさか自分がかの地に行くだなんてことは考えもしなかった。ロシアの都市というだけで、たいして事情を知りもせず、やたらと敬遠していたのは、日本のマスコミがロシアのマイナスイメージばかりを強調して流すせいだった。恒例のように冬になると「ロシアでは灯油がなくて凍えそうな人たちが大勢います」というニュース、そんな話を聞いたら誰だって、「ロシアってどうやら相当に貧しい国らしい、広大な国土はほとんどは氷に覆われているからね」だなんてとんでもない誤解をしてしまう。それに、KGBとかスパイが世界中にいるらしいし、モスクワ郊外では列車爆発事故が起きている恐ろしい国というイメージが頭の中に簡単に出来上がる。そうなると、そんな恐ろしい国に住んでいる人たちは当然皆意地悪で性格が悪い人たちに決まっているという短絡的な見方をしがちだ。だが、実際は彼らは母なる大地にように、困っている人を放ってはおけない優しくて、寛容な人たちなのだ。

 地球の歩き方のロシア版の巻末に読者からの便りが載っていた。その中で目を引いたのは「世界中ほとんど行きましたが、ロシアほど、特にサンクトペテルブルグほど素晴らしい所はありません。ローマよりもパリよりもどこよりもペテルブルグが大好きです」この投書を読んだ時はまだロシアに行く前だったが、あの天国のようなパリ以上の場所がこの世にあるなんてことは想像もつかなかった。それなら行くしかない。現地に行って、自分の目でその人の言い分の真偽を確かめるしかない。行くしかないが、大きな壁が立ちはだかった。当時はまだ日本ではロシアのビザは取れなかった。もちろん旅行社に頼めばいいのだが、そうなると旅行の費用が馬鹿高いものになる。もっともそれはガイドブックに書いてあったアドバイスに過ぎないのだが、当時はそれを信用しきっていた。

 行くのは無理かと一時は諦めかけていたが、ガイドブックの隅っこに外国でビザを取ってロシアに行った人のコラムが載っていた。ロシアの隣国ラトビアの旅行社でビザが取れるらしい。それで、フィンランドヘルシンキからフェリーでエストニアに渡り、そこからバスでラトビアまで行った。旅行社とはメールでやり取りし、ビザを受け取る日にちも料金も決めておいた。それなのに、現地に行ったら、話が違って何か別の書類が必要だと知らされる。その代金を含めたら、予定していた金額の3倍もの料金、220ユーロを要求された。少し躊躇したが、ここで立ち止まっていたら、ロシアへは行けないので泣く泣く支払う。高いお金を出して、ビザを買う羽目になった。だが今ではあの時の判断は間違っていなかったと思うし、またそれだけのお金を支払う価値は十分あった。

 サンクトペテルブルグの素晴らしさは何と言っても他に類を見ない建物の外観の美しさだ。特にエルミタージュ美術館、エカテリーナ宮殿は一目で見る者を魅了する。この世にあんな美しいものが存在すること自体が奇跡だとしか思えない。外観で一目惚れしたら、中に入ると更なる驚きと感動が待っていた。ロシアの底知れぬ偉大さと権力に眩暈がするほどだ。だが、何度も行っていると厳しい現実があることを思い知らされる。人が目にする建物の正面は美しく外観が保たれてはいるが、中庭に目をやると壁は悲惨な有様で、職人さんが補修をしているところだった。目が覚めるようなエルミタージュのもえぎ色、エカテリーナ宮殿のロイヤルブルーの美しさを維持するのは並大抵ではない努力がいる。まずはなんと言っても、先立つものはお金だ。

 だからか、一般的に入場料は高めで、特にエカテリーナ宮殿は2千円以上するのだが、私個人としては、それでも安すぎると思う。ロシアには外国人料金というのがあってロシア国民に比べて2倍以上に設定されている。入場料を外国人からどんどん取ってもいいから、あの美しさを何とかして維持してもらって、後世に残してもらいたいと切に願う。

 

mikonacolon