人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

サンセバスチャンは美味しい楽園

今週のお題「好きな街」

パリから逃げ出して、落ち着ける場所

 サンセバスチャンという地名を知ったのは、ネットで検索をしていた時だった。あの頃ちょうど会社の同僚がツアーでスペイン旅行に行ってきて、皆にお土産を配っていた。興味半分で聞いてみた。「スペインって食べ物は何が美味しいのですか?」「スペインはねえ、あそこには美味しい物はないね」こんなやり取りをしていたら、「まさか、そんなはずはないでしょう」という疑問がムクムクと湧いてきた。いや、別にスペインに特に関心があったわけではないが、本当のところはどうなのか知りたくなった。それではとネットで調べてみた。すると、スペインにはタパスというカナッペみたいなものがあるらしい。よくテレビのコマーシャルでビスケットのリッツにいろいろな具材を乗せて美味しそうに食べている場面が出てくる。タバスはリッツがフランスパンに変わっただけの物と考えればいい。

 だが、ネットのタバスの写真はあのコマーシャルのそれとは一線を画していた。要するに、上に乗っかっている素材の質がまるきり違っていて、見るからに美味しそうだ。この時私は初めて世の中にこんな美味しそうな食べ物があること、まだ食べていないので美味しいとは言えないが、そんな食べ物の存在を知って衝撃を受けた。写真をよく見てみると、サンセバスチャンのバルのタパスだと書いてある。正確に言うと、サンセバスチャンではタパスのことをピンチョスと呼ぶらしい。何事も”百聞は一見に如かず”で実際に現地に行かなければ始まらない。早速、本屋に行ってガイドブックを買ってきて調べた。美味しい食べ物のために、たったそれだけのために高いお金をかけて現地に行く、それも抑えきれない情熱のためなのだから別におかしくはない。

 ただ、よく調べてみると、サンセバスチャンの最寄り駅にはパリからのTGVが止まることが分かった。そうだ、どうせならパリに行ってから立ち寄る感じで行けばいいと考えた。すると、ついでだからバルセロナにも行って、帰りはそこからのフライトで日本に帰ればいい、だなんてことになった。サンセバスチャンが目的のはずだったが、気が付けばフランス、スペイン2か国の周遊旅行になった。この時の私は知る由もなかったが、サンセバスチャンは私に想像もつかないような幸せと安らぎを与えてくれた。

 サンセバスチャンは美食の町として有名だが、何よりも素晴らしいのはピンチョスが安くて美味しいことだ。バルセロナのそれに比べると、具材の質もそのボリュームもはるかに上をいっている。カウンターに所せましと並んでいる皿から自分が好きなピンチョスを勝手に取る、あるいは指さして店員に取ってもらうシステムになっている。サンセバスティアンは本来は港町なので、新鮮で美味しい鱈が食べられる。フランスパンの上にタルタルソースが掛かっている鱈のフライが乗っているピンチョスは絶品だ。どうしたらこんなに柔らかくなるのかと不思議に思うのだが、そんな赤ピーマンの中に詰められているのはツナと玉ねぎをマヨネーズで和えたサラダ。食べる前から生唾が出るのだが、かぶりつくと口の中でとろけてしまう。もちろん具材はバラエティーに富んでいて飽きることは到底ないが、特にこの二つは私のお気に入りだ。

 生ビール一杯とピンチョスを三つで10ユーロ程度だから、どう考えてもお得だ。ここではバルの梯子をする人も多いそうだが、私は一軒でもうお腹がいっぱいなのでそんなことはできない。だからまた翌日の楽しみにとって置く。私にとってサンセバスチャンはパリとセットになっているような場所で、時間を惜しむように行動しなければならないパリと違って、美味しい物を食べて、ゆっくりとできる有難い場所だ。高級保養地でもあるが、こだわらなければ安く泊まれるホテルもいっぱいある。それにパリではいつも空腹で食べ物に飢えていて、欲求不満を抱えていた。だからこそサンセバスチャンは私にとって必要不可欠な場所といえる。

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