今週のお題「好きな街」
シャウエンに行けた、それだけで幸運
思えば、当時の私にとってアフリカは遠い所で、とても行けるとは思っていなかった。どう見てもアフリカは日本からは遠すぎる。飛行機を乗り継いで二十何時間かかると言われてたら、たいして熱意がない私などはお手上げで、考える事すらしなかった。だが、そんな私に神様は偶然にも行く機会を与えてくれた。それはスペインへの旅行で断崖絶壁で有名なロンダに行き、ついでに足を伸ばしてアルへシラスに行くことになったからだ。アルへシラスはスペイン最南端の港町、そこでの目的はクジラウオッチングだった。だが、よく調べてみると、私が現地に行く１１月初旬はもうやっていないらしいとわかった。さて、どうするか、アルへシラスへの列車のチケットはすでに買ったし、ホテルも予約した。
スペインの地図を眺めていたら、あることに気が付いた、スペインとアフリカ大陸は目と鼻の先にあるということに。日本からは遥か遠い場所でしかないアフリカが、スペインから見ると、海を渡ればすぐのところにあった。もっとも実際に行ってみると、すぐではなくフェリーで２時間以上かかるのだが。そうだ、モロッコに行ってみよう。たった４日間しかなくて、強行軍にはなるがこれも一つのチャンスだと割り切った。モロッコに行くと決めたのは、日本を出発する２週間前だった。今から思えば、あまりにも無謀な計画だったが、行く以外に選択肢はなかった。まずはアルへシラスからのフェリーの予約のサイトを検索する。席に空きがなければ諦めるしかないが、幸運にも数席空きがあった。モロッコのガイドブックをペラペラ捲っていたら、何やらブルーがひときわ目立つ建物の写真が載っていた。「青の町ショウシャウエン」とあるが、皆それを短くして「シャウエン」と呼んでいる。
シャウエンは人気がある町で世界中から観光客が訪れる。そこへ行くにはモロッコのタンジェールからバスで２時間半かかる。だが人気の観光地なので、そのバスはいつも満席でチケットが取りにくい。バス会社のサイトを検索すると、予想通り予約でいっぱいだ。だがよく見てみると、たった一つ席が空いていた。運命に導かれるようにして、アフリカへ、モロッコへ、ショウシャウエンの町へと無事たどり着いた。
「たどり着いた」と書いたのには理由がある。アルへシラスのフェリー乗り場に行ったのだが、そこはもうヨーロッパではなくて、未知の世界だった。余裕を持って２時間前にチェツクインして待っていたのに、実際にフェリーに乗れたのは予定時刻の２時間も後だった。心配になって何度も近くにいる係員に聞いてみるが、スペイン語で「お待ちください」の一点張りで埒が明かない。どうやらここでは「時間通り」という言葉は通用しないようで、急ぐとか焦るといったストレスを感じなくていいらしい。待っていればいつかは出発する、そのいつかは正確には分からないが、少なくとも近い将来ということだけは保証されている世界だった。
一番最初のフェリーで躓いた私はそれから摩訶不思議な世界を体験した。フェリーに乗る前から嫌な予感がしたが、乗ってからもまた大変だった。当然あるべき乗客へのアナウンスというものが全くなく、船内で突然皆が大移動を始めたので何事かと驚いた。誰もが行く方について行くと長蛇の列ができていた。見ると行列の先にあるカウンターには制服を着た男性がいて、パスポートをチェックしていた。どうやら船内で出国審査をしているらしい。私も急いで列に並ぶことにする。日本のように「まもなく到着します」などと親切には教えてはくれないので、ひたすら周りの人たちの様子に目を凝らす。
フェリーから降りる時には仰天した。慌てて降りる支度をする乗客について行ったら、彼らは地下へとどんどん階段を下りて行く。不思議に思いながらもとにかくついて行くと、そこは車の駐車場だった。あろうことか、次々と出て来る車に接触しないように十分注意して出口の方に歩いた。そうやって皆がするように真似をしてフェリーを下りた。そんな訳なので、シャウエンへ行くバスに乗るにもひたすら待った。あそこでは時間はあってないようなものと考えた方がいいと気付いた。シャウエンは実際行ってみると、メディナと呼ばれる旧市街は中が迷路のようになっている３Ｄの町だった。何も知らずにホテルをその中に取ったのだが、気軽に出歩けない。道が左右のみならず上下に行ける階段まである。平面の地図では使い物にならないので、立体的な地図が必要だった。うず高い山があって、その中に町が出来ていて住居が混在している、そんなイメージだ。今度行くときはスマホのＧＰＳとナビが必要だと痛感する。一度行っただけなのに、なんだか面白そうだからまた行きたいし、その時はぜひともメディナの中を散策してみたい。
mikonacolon
