人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

変圧器を買った

 

これがなければ、たちまち飢餓状態になるから

 今朝散歩に行こうとして、玄関のドアを開けようとしたら、うまく開けられなかった。おそらく何かが引っかかっているのだろう、いったい何がと思ったら、宅配の荷物と思しき紙パックが置かれていた。そうだった、おととい、ネットのヤフーショッピングで変圧器を注文したことを思い出した。確かにお届け日は今日だとサイトには書いてあったが、まさか夜中に持ってきたのだろうか。たしか、注文の時、箱は無印で、もしかしたらアマゾンのロゴがはいっているかもしれません、と注意書きがあった。配達は日本郵便だと但し書きがあったが、まさか”置き配”だとは思わなかった。考えてみると、一軒一軒ドアのベルを押し、一々ハンコを貰わなければならない宅急便は効率が悪い。これがもし不在なら、倍の時間と労働力が必要で、昨今のSDGsにはふさわしくない。

 早速、パッケージを開けて、中身を確かめてみる。サイトには最大で2300Wまで使用可能と出ていたが、もちろん私にはそんなに多くの電気は必要ない。それどころか、280Wでいいのだが、探してみたが見つからない。ほとんどが携帯充電のためのもので、35Wとか50W程度の物しかない。その中で、とりわけ目立ったのが、この2300Wまで使えるタイプの変圧器だった。正直言って、これを買うしか私には選択肢がなかった。価格は4420円で、以前に使っていた5千円の物と比べると、嘘のように軽いのに驚く。前に使用していた変圧器は、まだ地球の歩き方ショップが都心にあったときに買ったものだった。それは丸くて、重くて、変な言い方をするとまるで”漬物石”みたいだった。

 その一体何者だかわからない、要注意人物のような外見が、誰の目にも明らかだったせいで、私は長年愛用していた変圧器を失くした。それがコロナ前の2019年の11月のことで、場所はサンクトペテルブルグのプルコヴァ空港だった。毎度のことながら荷物検査の時に「これはいったい何?」と追及を余儀なくされてきたが、暫しの後に無罪放免されるのが常だった。ところが、その時の女性の係員は断固として首を縦に振らない。トランスだとか、エレクトリックチェンジャーだとか言って説明しようとするが、相手にしてくれない。なんとかして欲しいと嘆願してみても、万事休すだった。ただ、幸いなことに帰国の便だったので、何の支障もなくてよかったのだが、その代わりショックは大きかった。

 なぜこうも変圧器にこだわるのかと言うと、ホテルの部屋で炊飯器を使って、お湯を沸かしたり、ご飯を炊いたりしたいからだ。変圧器の最大使用電力が300Wなので、できるだけ小さいワット数の炊飯器を探して購入した。そもそもなぜ私が炊飯器を旅のお供にすることになったかと言うと、夏休みにフランスの田舎町に行った時に何ともひもじい思いをしたからだ。そこは緑に囲まれた自然豊かな渓谷で、少しの間バスに乗ればラスコー洞窟にも行けてしまう場所だった。ホテルの真ん前にあるプールで泳いで、楽しく過ごしていたが、そのうち何か食べ物でも買いに行こうとしたら、店が何もないことに気が付いた。パン屋はたった一軒で、それもちっちゃい店で、店の前には数人待っていた。店の中を覗いてみたら、ショーケースの中にはたいして品物が残っていなかった。これはダメだと、さっさと諦めた私たちは、ホテルの前にあるバス停からバスに乗り、10分ほどのところにある町のスーパーに食料を買い出しに行った。

 されど、そこは外国で、日本のようにご飯や総菜が売っているわけでもなく、喜んで買って来たパエリアも生米同然で、食べられた代物ではなかった。その時思った、せめて炊飯器でもあって、ご飯が炊けたら、たとえ美味しくない惣菜しかなかったとしても、お腹は満たせるのではないかと。心底そう思うくらい、切実にひもじさを実感していた。朝まで我慢し、朝食ルームでパンを食べて空腹を満たした後、プールに行ったら、一番乗りだと思ったら、すでにそこには母子3人がいた。彼らはそこで何かを皆で食べていた。よく見るとそれはチョコレートがかかったウェハースのお菓子で、朝からよくそんなものが食べれるなあと仰天したことを覚えている。

 「まさか、本当に炊飯器を持って行く気なの?」と正気の沙汰ではないと言わんばかりの顔で友だちに言われた。どうやら私の固い決意を疑っているらしい。だが、その後行ったウィーンで、美味しい!と感激してレトルトのカレーマルシェを食べたのは誰だっけ?ほかならぬ彼女だった。駅に行っても甘い食べ物しかなく、日本人にとって食事と言えるものが見つからない環境にあっては、お米は救世主だった。

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