人生は旅

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砂川文次さんのこと

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テレビで見た砂川さんが印象的で、ついつい本を

 先日テレビを見ていて、第166回芥川賞に作家の砂川文次さんの『ブラックボックス』に決まったことを知った。画面では砂川さんが戸惑ったかのような顔をして、「あれよあれよという間に、こんな場所に引っ張り出されてしまいました」との受賞の弁を述べていた。あたかも今まで暗闇に居て、急にスポットライトを浴びて眩しそうにしている人みたいだった。普通はみんな満面の笑みを浮かべて受賞の喜びを語るのに、砂川さんのような人は珍しい。マスコミを意識することなく、マスコミに媚びを売るわけでもなく、いつものまま、自然体だった。自分の書きたいことを好きなように書いてきただけ、とでも言いたいような態度だった。実は以前にも『小隊』と言う小説で芥川賞候補になったことがあるらしい。自衛隊在籍時に書いた『市街戦』で文学界新人賞を受賞してデビューしたのだが、私は砂川さんの名前すら知らなかった。

 後日の朝日新聞の『人』欄では砂川さんを取り上げていた。「デビュー以来、社会の見えない『制度』にかすめとられる個人と集団との関連性を描いてきた」。今回の受賞作『ブラックボックス』では都会の谷間を走るメール便メッセンジャーが主人公だ。メッセンジャーと言えば、以前はよく彼らが自転車で颯爽と走る姿を見かけた。時たま彼らが合流する場所があって、4~5人の集団が交差点の隅でたむろしていることもあった。たぶんそこが彼らの集合場所だったのだろう。だが今ではかれらの姿を見かけることはなかった。今よく見かけるのはフードデリバリーの自転車で、ママチャリでやっている人もいるので驚いたことがある。

 私は本屋に行くと、本棚にある大勢の作家の本を眺めていつも思う、いったいこの人たちは皆作家でご飯が食べられているのかと。新聞に本の広告がよく載る作家はわかるのだが、あとの人たちはどうやって生活しているのかと想像してしまう。芥川賞直木賞を貰うと原稿料が高くなるらしい。でもそれはこの先も作家としてやっていけるという保証などではなくて、あくまでも作家としてのスタートラインに立っただけなのだと

 砂川さんも今は公務員でお子さんを保育園に送ってから仕事に出かける。いつも自転車を愛用して、週末には50~100km走る。では肝心の小説の執筆はいったいいつするのだろう。仕事を持っている人はたいてい週末を利用して小説を書いている。そうでもしないと時間がない、一日は誰にだって24時間しか与えられていないのだから。でも紙面には「執筆は深夜から出勤前と、昼休みに役所近くの喫茶店で」とある。共稼ぎでお子さん二人の面倒も見なければならない環境にありながら、小説を書いているのは凄いことだ。周りがざわざわしていては無理だから、きっと深夜が落ち着ける最高の時間なのだろう。それに喫茶店も一人になれて落ち着ける場所だから、小説を書くにはまたとない環境だ。

 砂川さんは「個人と集団の関係性は昔からいろんな人が書いてきた。書くことは変わっても、変えてはいけないものは変えずに書いていきたい」と今後の抱負を述べる。私と言えば、なんだか砂川さんのことが気になって、と言うか、どういう人なのか気になってしようがない。その人のことを知りたいのに直に会えない場合は、まずはその人が書いた小説を読むしかない。そうだ、『ブラックボックス』を本屋に行って買おう。でも近所にある一番近い本屋は”使えない本屋”で話題作があまり置いていない。でも芥川賞なら、いくら何でもあるはずだ。本屋に行くと予想は当たっていて平積みになっていた。でも『ブラックボックス』は売れていてあと2冊しかなかった。そのうちの1冊を手に取ってレジに持って行った。

 そんなわけで、私は今砂川さんの小説を読んでいる最中である。タイトルのブラックボックスの意味がわからなくてネットで調べた。それでそれが飛行機事故の時に回収されるフライトレコーダーだということがようやくわかった。事故前のコックピットの様子や機長と管制官とのやり取りが全て録音されているあれである。まだ物語は序盤で大きな波紋は生じてはいないが、これから何が起きるか楽しみだ。

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