人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

今村翔吾さんの挑戦

本屋の存続危機に斬新な構造改革を提案

 昨日新聞を開いたら、作家の今村翔吾さんのインタビュー記事が載っていた。今村さんと言えば、昨年『塞翁の楯』で第166回直木賞を受賞した人気作家であり、また、テレビ番組の『バンキシャ!』にもコメンテーターとしてゲスト出演されていた。その時のコメントが、時代小説家ならではの独特な視点から発せられたものだったので、とても印象に残っている。今村さんは、現在朝日新聞の朝刊に『人よ、花よ』という、伝説の武将、楠木正成の息子の多聞丸を主人公とする小説を連載中で、私も初めのうちは興味津々で楽しみにしていた。ところが、いつまでたっても、父親である楠木正成との回想が終わらず、飽きっぽい私は早々に読むのをやめた。それでも、未だに切り取ってスクラップだけはしていて、後から読むこともあるだろうなあと、気楽に構えている。

 気が付けば、連載も379回を迎え、物語も佳境に入っているのだが、残念ながら、さっぱりあらすじがつかめない。こんな不真面目な読者でも、受け入れてくれるのが、新聞小説のいいところで、気が向けば、いつでも最初から内容を確認できる。そもそも、新聞小説を書くこと自体、アグレッシブで、とても勇気がいることだ。その点において、今村さんは、テレビ出演も、講演も精力的にこなすエネルギッシュな人だと思っていた。

 だが、昨日のインタビュー記事を読んで、目から鱗だった。何と今度は書店経営にも参入したと言うのだ。今村さんは「いかに本屋が儲からない構造って言うのが、肌身をもってわかったし、万引きされたら、辛いっていうその感覚もわかった」と心情を吐露していた。そして、「今までの街の書店のビジネス構造が崩壊してきていることを外から見ているよりも10倍の速度で学べている」と現実を冷静に推察している。では、この壊滅的な状況をどうしたらいいのか。このままただ手をこまねいて見ているわけにもいかない。そこで、今村さんは抜本的な改革が必要だと主張し、記者の「具体的な構造改革とは何ですか」という難問にも即答していた。

 例えば、「世の中にはガソリンスタンドとか飲食店とかの本業で儲けながら書店をやっている人がいる。本が好きで、街から書店を失いたくないと思っている人がいる」ものなので、別事業で利益を上げている人が本屋を出していくのが一つのトレンドになるということ。要するに、本屋を救うには他業種からの力を借りなければならないのだ。

 特筆すべき、今村さんの考え方は「出版業界は不況って言われているけど、世の中には儲かっている業種もめちゃある。景気の良い会社はいっぱいある。その中で本がすごく好き、本によって救われた、本で何かやりたいっていう社長さんがいるのよ。CSR(企業の社会的責任)として、本で何かできないかなあって思っている企業の受け皿になりたい」ということ。それこそ、他業種を巻き込んで、街から本屋が絶滅してしまうのを食い止める。そんな誰も考えたことのない発想力に脱帽するしかない。我が身を思えば、いつの間にか、本は本屋でお金を出して買うのではなく、図書館で借りるものという発想が定着しつつある。それを可能にするのが、便利なネット検索と予約で、これでは自ら本屋が無くなるのに一役買っているようなものだ。

 以前までは、本屋はふらっと店に入って、買うつもりがなくても、最低一冊は買ってしまう魅力的な場所だった。その昔、友だちが「給料日前は、本屋に行かないように我慢しているの。行くと必ず買ってしまうからダメなの」などと歎いていたのが、今は懐かしい限りだ。本屋はぶらぶらするだけで、楽しい場所だったはず、それなりにお金も使っていた。では、いったい何が、どうして、こんなにも熱が冷めてしまったのか。「たいして面白い本がないから、つまらない」などと思ってしまうのだろうか。あるいは、私の飽きっぽくて、何かを求めすぎる欲深な性格が災いして、適当なところで満足すると言うことを知らないだけなのだろうか。

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