人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

家、ついて行ってイイですか

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良質のドラマを見ているような気がするのは私だけ?

 朝日新聞の夕刊に清水ミチコさんは時々『まあいいさ』と言うエッセイを書いている。いつ読んでも興味深いことや「ええ~!?、そうなの?」と驚かされることが多いので面白い。先日の話題はテレビ東京の人気番組「家、ついて行ってイイですか?」についてだった。この番組は毎回気軽に町で声をかけて、「おうちまでのタクシー代をお支払いしますので、」と前置きして、サラッととんでもない申し出をする。藪から棒に、いくらテレビの番組とはいえ、それは無理と言うか、非常識ではないかと普通の人なら戸惑う。と言うか、それならそれで早く言ってよ、こちらにも準備と言うものあるから、などと私なら言いたくもなる。私の場合、まず自分の家の混雑状態を思い浮かべて、今来られたらちょっとまずいなあ、それに全国のお茶の間に家の状態が実況中継されてしまうではないか。何か面白そうだけど、断るしかないか。でももうちょっと綺麗にしていたら、それなら来てもらうのにと少し残念にも思う。

 ところが、番組に出る人達はそんな言い訳は一切なしで、散らかっていようがいまいが関係ない。「あのう、部屋を片付ける時間が欲しいので、少し待ってもらえますか」と条件を出す人もいた。たとえ、片づいていなくても、あるがままを見せてもらった方が、視聴者としては絶対面白い。この番組に出る人たちの人生は彩に溢れ、どんな小説にも負けないくらいドラマチックだ。彼らは個性的で、自分の事についてよくしゃべる。人が好きで自分の事を誰かに聞いて欲しいみたいだ。お決まりのコースを歩いてきたエリートなどひとりもいないが、「まさか、この人がそんなことを?!」と驚くほどアカデミックで教養がある人もいる。若手人気俳優を集めただけの薄っぺらなドラマなんかより何倍も面白くて、見終わったときに「人の人生は一筋縄ではいかないなあ」と実感する。この番組に出て来る人はみな善人で人が好きなんだなあと思ったら、心がほんのりしてきた。

 清水さんも書いていたが、「こないだ観た、代々木に住むおじさん」のこと、実は私も途中から見ていた。ごみ屋敷に住んでいたその人は、番組のスタッフに家をキレイに掃除してもらって、とても喜んでいた。業者にトラック何台ものゴミを引き取ってもらって、その費用が42万円だと聞かされて目を丸くしていた。最初ゴミだらけの畳の顔が見えない、散らかった中で何かを取り出して食べようとした。その時スタッフにも「あなたも食べる?」と声をかけてくれたのだが、よく見たら、それは賞味期限が遥か昔の物だった。「これはもう食べられないですよ」とスタッフが言うとおじさんは笑っていた。それでもスタッフが帰ろうとすると、「泊まっていきなよ」と優しい言葉をかけてくれる。

 実はおじさんは一人でずうっとこの家に住んでいて、人と関わることが無いのだそうだ。若い頃から外で働いたことがなく、生活費は親の遺産で何とかなっていた。と言っても裕福ではなく生活を切り詰めて暮らしている。「あと何年かしたら、もう遺産は尽きるけどね」などと冗談とも本気ともつかないことを言う。いつも布団に寝て暮らしているようで、インタビュー中も布団の中だった。「俺はもう体力がなくて、もうダメなんだよ」。おじさんは時々死にたくなるなどと悲しいことを言いだすのでびっくりした。でも天文学的な規模であったゴミの山が片付いて、久々に畳や床が現れるのを見たとき、おじさんの顔は輝きに満ちていた。もうゴミ屋敷ではなくなった家に感激して、生きる希望を見出したのかもしれない。それからしばらくして、おじさんの家をスタッフが訪ねた。庭先でおじさんの名前を呼んでみたら、元気な声で「はあ~い」と返事があった。どうやら元気でやっているらしいのでホッとした。

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