人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

サンセバスティアンで戦々恐々

こんなサンセバスティアン、見たことない

 昨日のブログの続きで、私はカフェで天候が回復するのはをひたすら待っていた。さすがに人目があるところでは疲れる。それに、皆次々と店を出て行くので、私もそろそろと立ち上がる。さて、どうしようか、こんな天候では街の散策どころではない。いっそ、ホテルにでも帰って休もうかという考えが浮かんだ。強風の中を進もうとするが、上手く進めない。思えば、私の人生の中でこんな突風の中を出歩いたことは一度もなかった。日本で言えば、台風の最中に出歩くようなものだ。こんなのありえない。進もうとすると、押し返されてしまう。身体をくの字にして、精一杯の力を込めて強風に抗い、何とかウルメア川のほとりにある遊歩道まで行く。川の水位もかつて見たことがないほど高いし、またその流れは勢いを増して恐ろしいくらいだ。コンチャ湾もいつもは静かで穏やかな海なのに、今は波が高く荒れていた。

 遊歩道は一見公園かと思われるほど、緑に溢れている場所だが、ブルーのテープが貼られて、進入禁止になっている。なのに、強風でテープが剥がれて、それさえも何が何だか分からい有様だ。それくらい風は強く激しかった。そして、前日のホテル探しで頭が混乱していた私は全く気が付かなかったが、足元にはあちらこちらに無数の木の枝の残骸が散らばっていた。ポキポキと折れた木の枝がうず高く積まれているような光景を見た瞬間、初めて何が起きたのか、全てを理解した。まさに台風が過ぎ去った後のような風景だが、本当のところはまだその最中で終わってはいなかった。

 風が止んで、穏やかになったかと思うと,突然強風が吹いてくるという、全く厄介な天候だった。ホテルに帰り、ベッドに寝っ転がって、テレビをつけて見ていたら、ちょうどニュースをやっていた。それはスペイン東部の海岸沿いにあるバレンシアで大変な被害があったと伝えていた。映し出された映像は瓦礫の山、また山で強風で海岸沿いにあった建物が崩壊したらしい。さらに、電車や飛行機などの公共交通機関にも多大な影響が出ていると言う。それを見ていた私は、翌日自分が朝早く列車でマドリードに行くことを思ったら、どうしようと慌てふためいた。つまり、昨今の日本でよくあるように列車が運休になったら、いったい私はどうしたらいいのか。そんな事態を想像したこともなかったが、この時はそのまさかが現実になるのではないかと怯えていた。

 昨日ブログで、「市庁舎近くにある、遊歩道に設置されていたメリーゴーランドは撤去されています」と書いたが、あれは私の勘違いで、本当は強風で吹き飛ばされないために木馬や飾り等が取り外されていただけだった。実を言うと、サンセバスティアンは毎年10月ごろに開催される映画祭や、美食の街として世界中から注目されているにも関わらず、不況だと言われている。そんな噂もあってか、早とちりして、だからメリーゴーランドもなのかと思ってしまったわけだ。だが、残念なことに、そんな噂に拍車をかけたのが、コロナ禍だったようだ。サンセバスティアンに行くのは5年ぶりだったが、以前あったはずの店がどこにもなく、気軽に入れる安い店が消えていた。以前、物価高のパリから逃げてきて、ホッとできる場所だとブログに書いたことがあるが、今ではもうそんな場所ではなくなっていた。何処にでもありそうなケーキ屋の小さなマドレーヌでさえ、パリと変わらない立派な値段なのだから。

 それに、ガイドブックの地図に載っていたレボチャ市場が、ついに建て替えられ、若者向けのファッションビルに変わっていたのを見たときは時の流れをひしひしと感じた。確か、5年前に見たときは、中はガランとして、倉庫状態だったはずだ。少し前まではテレビのNHKスペイン語講座で、俳優の平岳大さんが、リポートしている場面を見たこともあったのだが。こうもサンセバスティアンの見たこともない姿を見せつけられると、胸中は複雑というしかない。

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