人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

気持ちよく仕事するために

f:id:mikonacolon:20211214173217j:plain

客を騙すことに罪悪感が湧いてきて

 親戚の結婚式に出席した時、披露宴の会場でひとりの青年と知り合いになりました。彼は新郎の高校時代の友人で証券会社に勤めていました。新郎は有名IT企業、親友は商社に勤務で海外出張にも行く、まあ世間でいうエリートで、仲間たちはそれぞれ活躍していたのです。それなのに彼はその時悩みのるつぼに嵌っていました。新卒で会社の入ったときはそれなりに希望に燃えていました。上司に付き合ってカラオケに行き、「おまえ、なんか歌え!」と言われたら躊躇なく歌声を披露しました。人前で歌うことは大学時代にアカペラの同好会にいたので慣れっこでした。仕事でのはじめの一歩は証券会社の外務員資格の試験に合格することでした。そのために今までの人生で一番熱心に勉強したと言っても過言ではありません。外務員の資格がないと客に証券を売ることができないからで、全く仕事にならないのです。上司に「みんな全員合格するのよ」とはっぱをかけられたせいか無事合格し、いよいよそれからが本当の仕事でした。

 そう言えば、最近コンビニで誰かのこんな嘆きを耳にしました。「俺が2か月かかって勉強したことをAIはたった6時間でやってしまうんだよ」。イートインのスペースでスーツ姿の新入社員らしき男性たちが何やら話し込んでいました。どうやら彼らは何かの試験を受けてきた模範解答を見ていたのでした。すぐに彼らの話からそれが生命保険の外交員に必須の資格試験だとわかったのでした。どこの業界にも新人が通らなければならない関門はあって、その扉を通過してやっと”ひよこ”になれるのです。

 彼もそんな”ひよこ”の仲間で、一人前の外交員になるために先輩について顧客回りを始めました。最初のうちはその日に回った会社や個人宅等の情報と話した内容を手帳にメモしていました。当然ながら新人の彼から株を買ってくれる客はいませんでしたが、たまに同期がとんでもない高額の取引を成立させることがありました。それは運がいいというよりはむしろ彼の人間性というか、つまりセンスがあるとしか言えないのです。

 証券会社というのはノルマがあるらしく、おとなしく波風立てないでやっていればいいわけでもないのです。証券を売るのが仕事ですから、そんなに毎日が楽しいわけありません。もっとも、売れると楽しくて仕方がないそうですが、売れなくて悶々とする身にはそんな心境は宇宙の出来事です。彼も大好きな彼女が誕生日にプレゼントしてくれたネクタイを締めて頑張ろうとするのですが、なぜかうまく行かない。それどころか、そのネクタイをした日に限って嫌なことが起きるのです。どうしても我慢できなくて家族に愚痴ったら、「そんな縁起の悪い物は棄てちゃいなさい!」と母親が激怒しました。そして信じられないことにネクタイをゴミ箱にポイと放りこんだのでした。

 その頃母親は風水に凝っていて、息子から縁起の悪い物はすべて取り除かなきゃと固く信じていたのです。とりあえず自分に不運な物は遠ざけたのですが、現実は厳しいままで売り上げは芳しくありません。すると上司はある提案をしたのですが、それは彼からしたら客を騙すことにほかなりませんでした。彼に言わせると、自分はたいして真面目でもなく、正義感があるわけでもないのです。でもそんな自分でさえ、罪悪感に苦しめられてしまって、毎日が辛いのです。どうしたらいいのか、こんな時はどうするのが一番いい選択なのかと考えたら、答えはシンプルでした。つまり自分に向いていない証券業界から転職をすればいいのです。罪悪感を抱くことなく働ける仕事を見つけることにしました。そのために選んだのは資格を取ったら即仕事に結びつく公認会計士で、会社の帰りに予備校に通い始めたのです。

mikonacolon