人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

バイトをサボりたい時

今週のお題「サボりたいこと」

サボりたいのに、なぜかサボれなかった?

 「それまでサボりたい放題の僕があの時だけはサボれなかったんですよ」これは以前聞いた会社の同僚だった男性の発言である。彼は当時大学を目指して予備校に通っていた。高校は一応、県でも有名な進学校だったが、彼は勉強など全くせず、部活にのめり込んでいた。学校に通うのは部活のためで、当然成績は急降下した。それでも彼は気にすることもなく、仲間と練習に明け暮れた。だが、高校の3年になって進路を決めることになって、彼は初めて周りの現実に直面した。部活の仲間たちはそれなりに勉強していたらしく、中には全国模試で成績優秀者に名前が載るような友達もいた。それでも、彼は負けず嫌いと言う性格ではないらしく、たいして焦りもしなかった。彼の頭の中には就職するという選択肢はなく、まあとりあえず、バイトしながら、翌年再度受験するつもりだった。

 結局、浪人生活は2年続いたのだが、最後の年に国公立を受験した時にはこれはイケルかもという実感があった。自己採点してみたら、合格の予感がしたのだ。だが、結果は”桜散る”で不合格だった。勝手に舞い上がっていた気持ちは急降下し、彼は呆然自失した。期待していたのに不合格がわかったのが午前中で、何もする気が起きず、自分の部屋に閉じこもってベッドに横になっていた。食欲はいっこうに湧かないし、これからどうしたらいいかもわからなかった。とにかく今は何も考えたくなかった。その時ふと思い出した。たしか、その日の夕方6時からバイトのシフトを入れていたことを。まずい、なんてこった。こんなどうしようもない、できれば誰にも会いたくない気持ちなのに、これからバイトに行かなくてはならないとは!その時は牛丼店でカウンターでお客の相手をしていたが、今はそんな気分ではない。

 さて、どうするか。こんな時は誰だってサボりたいが、あろうことか、彼は嫌々ながら、重い足を引きずりながらバイトに行った。自分で言うのも何なのだが、僕はけっこういい加減な人間で、周りから散々責められても、あまり気にしないタイプの人間だと彼は言う。今までバイトをサボるなんてことは平気でしてきたが、あの時だけはなぜだかサボる気にはなれなかった。気軽にサボるという決断ができない状況に始めて追い込まれたのだ。「嫌だけど、これからバイトに行ってくる」と言う彼を家族は心配そうな顔で見つめた。彼の性格を知りすぎている妹は「ええ~!?バイトに行くの?」と驚いていた。

 気分が最悪のコンディションで無理矢理バイトに行ったのだが、店に行ったらいつものように身体が動いた。第一志望の大学に落ちたことを働いている時はしばし忘れていられた。後から考えると、いい意味での気分転換になったわけだ。あのまま部屋に閉じ籠っていたら、どうなっていただろうか。試験に落ちたという現実は何も変わらないのだが、彼の気持ちには何らかの変化が起こって、前へと進めたことには間違いない。

 考えてみると、彼がとった行動はなんだか可笑しくて、不可解でしかない。一番サボりたいときに、真面目になってサボれないなんて、それってどうなの、とツッコミを入れたくなる。サボることに、罪悪感など皆無の彼が、連絡などしない彼が、寝坊して起きられなかったと素直に言う彼が、サボれないこともあるのだと仰天するしかない。それからしばらくして、彼がバイトをサボりたいと思う事態がまた起こった。大学生になった彼はアカペラサークルで彼女ができた。あれはちょうどクリスマスイブの日で、恋人たちが二人で過ごす特別な日だった。それなのに、彼女曰く、おバカな彼はバイトのシフトを入れてしまっていた!当日になって気が付いた彼は彼女に怒られて、「バイトをサボりたい!」と叫んだのだが、万事休すだった。こればかりはさすがにカラスの勝手でしょう!と同情する気になれなかった。

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