人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

火事です、避難してください

突然の緊急事態に、オロオロするだけ

 またまた桐原さん話題で、最近とても衝撃的な事件が起きたという。それは、土曜日の夕方で、桐原さんは早めのお風呂に入ろうとした。服を脱ぎ、浴室に入って、肩から掛け湯をした瞬間、室内にけたたましい騒音が響いた。その音は信じらないことに、「火事です、避難してください」と言っているようで、インターホンからの警告音だった。桐原さんは、まさかの事態に大いに狼狽えたが、裸のままではどうにもならない。とにかく、バスタオルで身体を拭き、服を着て脱衣所から出た。その時夫が玄関から顔を出したので、「火事はどこなの?」と聞いてみた。だが、夫にも確かなことはわからないようで、とにかく急いで廊下に出る。すると、通路には同じ階の住人が不安な様子で立ち尽くしていて、警告音は依然として鳴りやまない。

 よく聞いてみると、「火事です、避難してくだい」の後には、「8階で火事が発生しました」とのフレーズが続いたので、仰天した。8階と言えば、桐原さんが住んでいる階で、途端に恐怖に震えた。8階の住人たちが、一軒づつ確認すると、皆部屋の外に出て来ているのに、一軒だけ出てこない人がいた。それがなんと、高齢の男性が住む部屋で、しかも桐原さんの隣の部屋だった。桐原さんは、一瞬心臓が止まりそうになったが、何とか冷静さを失うまいと努力した。少し前まで、8階の理事をやっていた伊藤さんが、ドアをノックする。すると、男性は「フライパンを火にかけていたら、炎が上がってしまって、火災報知機が鳴ってしまった」などと説明する。

 伊藤さんが「大丈夫?怪我はしなかった?」と心配して尋ねると、「大丈夫です」と平然と答える。だが、問題はけたたましく鳴り響く警告音で、これを何とか止める方法はないものかと皆で考える。こんな時どうしたらいいのか、何も教えてもらっていないので、何もできず、オロオロするばかりだった。「火事です、避難してください」の警告音は8階のみならず、15号棟全体に広がってしまった。8階の住人のひとりが、自治会長に連絡してみたらと言い出したが、肝心の電話番号がわからない。それに、自治会長はそんな重大な責任を押し付けられても困るのが本音なのだろう。つまり、大変忌々しきことだが、なり手がいないので、仕方なく引き受けているというのが実情だった。

 毎月の自治会の会報にも、住人同士のトラブルは各自で話し合って解決するか、あるいは市営住宅の管理会社に相談してください、とちゃんと明記してあった。なので、どう考えても、こんな緊急事態に、自治会長を頼りにするのは間違っていた。そうこうしているうちに、サイレンが鳴り響いて、消防隊の人がやって来た。おそらく誰かが119番に通報してくれたのだろう。考えてみると、桐原さんたち住人は、警告音を何とかしようと、一分でも早く止める事しか考えなかった。まさか119番に通報することなど頭になかった。それというのも、市営住宅での火災報知機のシステムをなにも知らされていなかったからだが、知ろうとさえしなかった住人にも問題があったことは確かだ。

 消防隊の人によると、もしも火災報知器が反応してしまったら、すべきことは、すぐに119番に通報することだという。桐原さんも今回の騒動がきっかけで、市営住宅に入居した際に貰った「住まいのハンドブック」を改めて読んでみた。そこには、火災報知器が鳴ったら、119番通報するか、管理会社に連絡してくださいと書いてあった。まずは何よりも119番するのが優先されることは言うまでもない。桐原さんが住んでいる部屋についている火災報知器は警告音を発するが、それが消防署に直結しているわけでもないことが初めて分かった。要するに、近所迷惑にならないためにも自ら119番通報することが何より大事だった。言い方は悪いが、今回のぼや騒動は、今後のいい教訓になったと桐原さんは話していた。

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